日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ぴぽん』 内田麟太郎

(月刊「こどもの本」2021年4月号より)
内田麟太郎さん

はじめての絵本誕生秘話

 まだすこしは若かったころ、文章が書けなくなったら、なにをしようかと考えたことがあります。絵を描くのが楽しそうでした。でも、絵画教室に行くのは気がすすみません。 なるほど巧くはなるでしょうが、巧い絵よりも、楽しい絵が描きたかったからです。余生ですからね。 下手も絵のうちというのは、熊谷守一さんの言葉ですが、どうしてどうして熊谷さんの絵は、下手と見えてとんでもなく巧いものです。そうじゃなくて、ほんとうの下手な私としては……。夢を見つづけました。いつの日か落書きみたいな絵が描けるようになったら、絵本を一冊出したいなあ。下手が落書きみたいな絵というのは矛盾でありますが、下手ほど巧さを気にするものです。 ところが某日。擬音ばかりで書いた自作の「ぴぽん」という詩を読み返していたら、ふと悪魔のささやきが。「これ、絵本になるんじゃない」 よろり。 私は絵を描きはじめていました。といっても絵に自信はありません。ケント紙や絵の具を買いに行く気まではわいてきません。手元にあったコピー用紙に、フェルトペンで、もにょもにょもにょ。ただひとつだけ大事にしたのは、落書きのココロ、遊びのココロでした。ああ、そんな落書きを無謀にも鈴木出版へ送りました。 ぴぽん! 絵本になりました。 たしかに内田麟太郎が、わが愛する国民に贈る、本邦初の自作絵本です。 しかも楽しい。 これぞ今世紀が待っていた不朽の名作。 と絶賛してくださるお気持ちは分かりますが、絵に巧さを求める方にはおすすめできません。 されど、子どもと一緒に笑いたい。 しあわせなワタシになりたい。 珍本収集癖がある。 そんな方に、おすすめの絵本です。 ただ……。重版につぐ重版になりそうだから、珍本になるかなあ。

(うちだ・りんたろう)●既刊に『へんかしら そうかしら』『くじらさんのーたーめなら えんやこーら』『とりづくし』など。

『ぴぽん』"
鈴木出版
『ぴぽん』
内田麟太郎・作・絵
定価1,320円(本体1,200円)