日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『みかんおいしくなーれ』 矢野アケミ

(月刊「こどもの本」2021年1月号より)
矢野アケミさん

「おいしくなーれ」シリーズ 誕生

 新刊の話をするには、その前に2018年刊行の『バナナおいしくなーれ』(大日本図書)の話をしなくてはなりません。

 バナナにおまじないをかけ皮をむくと、ウインナーやソフトクリームなどが出てくるという絵本ですが、最初のダミー(ひな形)を作ったのは刊行から十年前にさかのぼります。

 当初は、チンパンジーがバナナをむくとマイクやバットなどが出てくる、という内容でした。編集者の當田マスミさんにアドバイスをいただきながら、ダミーの練り直しを重ねていたのですが、チンパンジーの絵が人間ぽくなってしまうので、動物園に通ったり、写真や動画で研究してデッサンを重ねました。そのうちにどんどんチンパンジーにのめり込み、学術書まで読み漁るように……。

 ところが肝心のストーリー展開は、なかなか當田さんからのOKが出ません。「このままでは、うちでは出版は難しいかも。他の編集者さんに見ていただいてもいいですが…」と言われてしまったのです。せっかくここまで作ってきたので、引き続き担当していただくことにしたのですが、手直しのアイデアがとんと浮かばなくなり、そのままダミーを放置してしまいました。それから数年後、「果物の絵本を作りませんか」と、當田さんから声をかけていただき、「そうだ!」と、しまってあったバナナの絵本を引っ張り出したのです。

 新たなダミーでは、チンパンジーを登場させず、バナナだけに焦点を絞りました。バナナをむいて驚いたり喜んだりするのは、絵本の中のチンパンジーではなく、絵本の前の読者でいいんだ、と思えたからです。チンパンジーにこだわり過ぎていた当時の自分では、そのことに気がつけませんでした。〝放置〟の功名ですね(笑)。

 そうして、めでたくバナナの本が刊行され、「おいしくなーれ」はシリーズ化! そして今回は、「みかん」です。バナナの次にむくものと言ったら、これしかないでしょう! 中身の説明は、もう御無用ですね。

(やの・あけみ)●既刊に『バナナおいしくなーれ』『ギョギョギョつり』『ばんそうこう くださいな』など。

『みかんおいしくなーれ』"
大日本図書
『みかんおいしくなーれ』
矢野アケミ/さく
本体1,200円