日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ20
『かいじゅうたちのいるところ』 冨山房

(月刊「こどもの本」2021年1月号より)
『かいじゅうたちのいるところ』

私にとっての奇跡

モーリス・センダック さく/じんぐうてるお やく
1975年12月刊行

『かいじゅうたちのいるところ』 この絵本に出会ったのは一九七〇年頃のことでした。海外で出版された絵本を取り寄せた中にコールデコット賞の金色のラベルが光る『WHERE THE WILD THINGS ARE』がありました。

 表紙はヤシの木のような木々の根方に牛のような顔で長い爪が生えた手と人間の足を持った怪物が眠っていて、すぐ後ろは波立つ海で、一艘のヨットが浮いており、空には星が輝いているのでした。この絵本を見た瞬間、ぜひ日本語版を出したいと強く思いました。しかし、既に日本語版が出版されていました。『いるいるおばけがすんでいる』という絵本でした。残念ながら諦めるしかありません。

 その頃、小社は児童図書の出版を再び手掛け始めたばかりでした。児童書の担当を希望する編集者もやっと入って来てくれたところでした。佐藤康之(現三陸書房社長)というこの人は、社員募集もしていないのに、どうしても編集部に入れてもらいたいと何度もやって来て、とうとう入社してしまったのです。すぐ、アーノルド・ローベルの『いろいろへんないろのはじまり』などを出してくれました。そしてある日、神宮輝夫先生を社にお招きし、私に会わせたのです。それが、御縁となって先生には随分お世話になることになりました。

 そのようなことがあってからしばらくして、あるパーティーの会場に居た私に電話がありました。佐藤氏からで『いるいるおばけがすんでいる』が翻訳権を版元に返したので、小社にもチャンスがあるというのです。あるエージェントの方が条件を良くして、その上、センダックの他の作品も契約すれば、小社にチャンスがあるというのです。私はすぐその場で具体的な条件を伝えました。間もなくOKがきて、契約ができました。翻訳は神宮先生にお願いし、一九七五年一二月に初版を出すことができました。

 絵と文を作者センダック自身が手掛けたこの絵本は、数あるセンダックの作品の中でも特に優れた作品だと思います。

 字数に余裕がありませんので、これ以上詳しくは書けませんが、この絵本が今も再版を重ねて小社の「売れ筋」になっているのは訳者の神宮輝夫先生のおかげであります。また、初めて先生にお目にかかったあの日がなかったら、おそらく今日の『かいじゅうたちのいるところ』はなかったと思うのです。

(冨山房 社長 坂本起一)