日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ミッドナイトギャングの世界へようこそ』 三辺律子

(月刊「こどもの本」2020年12月号より)
三辺律子さん

「ズレ」が開く世界を楽しんで

 デイヴィッド・ウォリアムズの作品とのお付き合いも、本書『ミッドナイトギャングの世界へようこそ』で四冊目になる。ウォリアムズは、元々イギリスのコメディアン。本の中でも、読者に語りかけるように物語をどんどん語り進め、ぽんぽんジョークを飛ばす。

 笑いは「ズレ」があるところに起こると言うが、退屈なおばあちゃんが実は大どろぼうだったり、認知症のおじいちゃんが悪徳老人ホームの実態を暴いたり。「ズレ」というのは、私たちの「本来はこうあるべきだ」という予測が外れることから生じるが、ウォリアムズの作品を読んでいると、笑いながら、凝り固まった考えが解放されていくのを感じる。

 『ミッドナイトギャングの世界へようこそ』の舞台は、小児病棟だ。ただでさえ闘病生活はつらいものだが、患者が子どもとなると、本人も見ているほうもひときわつらさが増す。ところが、ウォリアムズの手にかかると、小児病棟もたちまちギャングの活躍する冒険の場となる。

 その中心となるのが、生まれつきの障害のため、顔がいびつな形になってしまった病院の用務係だ。恐ろしい見た目や用務係という平凡そうな仕事とは裏腹に、彼は誰よりも優しく強い心の持ち主で、奇想天外な方法で子どもたちの夢をかなえてくれる。ここにも、大きな「ズレ」が描かれている。

 大金持ちの家に生まれながら、両親の愛情に飢えている(ここにも「ズレ」がある)トムは、小児病棟に初めて自分の居場所を見つけ、最後には重病の友だちを思いやる強さも身につける。

 こんなふうに、ウォリアムズの作品はいつも必ず、心を揺さぶるような展開やシーンが用意されている。でも、本人にきいたら、「いやいや、ただ笑わせたくて作ったんだよ」と言いそうだ。

 原書は、大小中のフォントの文字にトニー・ロスのイラストを組み合わせ、スラップスティック風の雰囲気を醸しているが、日本版では平澤朋子さんが、くすっと笑ってしまう軽快さを保ちつつ、ストーリー展開に欠かせないイラストをつけてくださっている。

(さんべ・りつこ)●既訳書に『夜フクロウとドッグフィッシュ』『おじいちゃんの大脱走』「マジカル・チャイルド」シリーズなど。

『ミッドナイトギャングの世界へようこそ』"
小学館
『ミッドナイトギャングの世界へようこそ』
デイヴィッド・ウォリアムズ・作/三辺律子・訳/平澤朋子・絵
本体1,600円