日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ウサギのトリン きゅうしょく、おかわりできるかな』 高畠じゅん子

(月刊「こどもの本」2020年9月号より)
高畠じゅん子さん

はみ出す楽しさを知りました

 ウサギのトリンは、人生初の幼年童話です。これまで、主に絵本のおはなしを書いてきました。子どもむけの文章を書く仕事なんだから、だいたい同じようなものだろうと高を括っていたら、これがなかなか難しい。絵本のテキストは長くても千字程度ですが、童話の場合は短くても五千字と、内容が五倍に増えているのですから、同じ勝手で作れないのは当然です。絵本は、絵が主役で、文章は名脇役と私は思っているのですが、童話は、文章が主役です。これまで、絵で見てわかる情報を、極力排除して、言葉を選んできた私からすると、膨大な情報を取捨選択しながら、登場人物の動きや感情を文章だけで伝えるのは、なかなか骨の折れる仕事でした。しかし、トライ&エラーを繰り返しているうちに、絵本では物語の構造を作り込んで、ほとんどはみ出すことがないのですが、童話はいつでもはみ出せる余地があること、その楽しさを知りました。このおはなしは、自分が作った筋書きに沿って肉付けしてできたというよりは、書きながらアイディアを形にしていった作品と言えるかもしれません。

 さて、話は変わりますが、今回「給食」をテーマにしたのは、小学生の娘が、学校にいる時間で一番好きな時間を「給食」と答えたからです。家族が作る料理以外の食事をみんなで食べる時間は、おはなしになる要素が詰まっている気がして、すぐに娘の学校に取材に行きました。昔と違って、よそわれた物は全部食べないといけない、という風潮もなく、アルミの器から、陶器の器へ。また、クラスごとのアレルギー対応など、環境の変化を感じることもあれば、デザートの争奪戦や「チラリーン鼻から牛乳」と、男子がふざけて歌っている姿は、昭和小学生のマインドとなんら変わらないことにも気がついて、トリンの同級生のような気持ちで書き進められました。

 嬉しいことに、続編もオファーをいただいたので、トリンとその仲間たちと共に成長していけるよう、頑張っていきたいと思います。

(たかばたけ・じゅんこ)●既刊に『よいこはもうねるじかん』『ブービーとすべりだい』『まじょがかぜをひいたらね』など。

『ウサギのトリン
小峰書店
『ウサギのトリン きゅうしょく、おかわりできるかな』
高畠じゅん子・作/小林 ゆき子・絵
本体1100円