日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『よくわかる がんの話(全3巻)』 林 和彦

(月刊「こどもの本」2020年8月号より)
林 和彦さん

意識から知識の教育へ

 コロナウイルスが世界中で猛威をふるっています。わが国をはじめ世界各国は緊急事態宣言を発令して、精一杯の対応に追われていますが、これまで経験したことのないこの感染症に対して、われわれはあまりに無知で無力であることを思い知らされました。また、マスコミやインターネットから毎日届く情報量は膨大で、そのすべてはとても把握しがたく、医師である私ですら何が本当なのか戸惑うこともしばしばです。

 今回のような重大な世界的危機の際にはもちろんですが、一見平穏に思える日常生活でも、われわれは日々さまざまな健康情報を取捨選択しています。健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力をヘルスリテラシーと呼びますが、このヘルスリテラシーを高めることで、日常のヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションといった健康課題について、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができます。新しい学習指導要領では、「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」の三つの資質・能力の育成に必要な、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた教育を求めていますが、その嚆矢として学校でがん教育が始まりつつあります。

 この本は、子どもたちのがん教育の際の教員の教材として、また、学校でがんを学ぶ子どもたちの参考書として、がんについて正確で有用な情報を、可能な限り分かりやすく解説しました。がん教育は単に知識を教授する教育ではなく、子どもたちのヘルスリテラシーを高める意識の教育です。令和の時代には、当事者意識を持って学び、そこで得た正しい知識をもとに、自らの健康課題に臨機応変に対応することができるように、包括的な健康教育を行うことが強く求められています。がんという身近で命に関わる病気を題材にして深く学んだ子どもたちは自分自身を大切にするだけでなく、いずれは他人の命を思いやり、社会や国の将来をも考えられる大人になってくれるはずです。

(はやし・かずひこ)●既刊に『「がん」になるってどんなこと? 子どもと一緒に知る』など。

『よくわかる
保育社
『よくわかる がんの話(全3巻)』
林 和彦・著
本体各3,000円