日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『星のなる木』 田村セツコ

(月刊「こどもの本」2020年7月号より)
田村セツコさん

ほんとうの「豊かさ」とは

 ひとりぽっちのリンちゃん。

 ある朝、窓のそばでみつけた一つぶのタネを、土にそっと埋めて、お水をやると、それは、みるみるのびて、天にもとどくほどの、大きな木になりました。

 しかも、そのあと、見たことのないふしぎな花がつぎつぎと咲いたので、びっくり。村の人々も集まって大さわぎ。

 そこに目をつけた、ひとりの、欲ばりおじさん。「この、世にも珍しい木をもとに、ひともうけしよう」と欲ばりあたまにピカッとひらめいたのです。もともと、大金持ちなのに、もっと、もっと、ふやしたくなったのです。そこで、持ち主のリンちゃんに、お金もうけ話の取り引きをもちかけるのでした。

 リンちゃんは、自分がまいたタネがもとでとんでもないことになり、悲しい気持ちになりました。そして勇気を出して、この話をことわりました。

 この、お金もうけしか頭にないおじさんに対して、その時ふしぎな大きな木は、どんな態度をとったのでしょうか?

 そうです この時大きな木がくりひろげる、自然界のパフォーマンス。「おじさん」対「大きな木」の対決です。

 これには読者のこどもたち諸君も目をみはることでしょう。自然界の大きな力の前で、お金に目のくらんだ人間とは、なんと小さな、こっけいな存在なのでしょう

 絵を描きながらふと、この欲ばりおじさんが「たすけてー」と、風にとばされたあとのことを考えました。もし、これをきっかけに心を入れかえて、よくばり心をすてて、いいおじさんになってくれたら

 一生懸命、畑仕事にせいを出して、汗をふきふき「いやあ、昔はバカだったなあ」などと、ひとりごとを言って、リンちゃんにクスクス笑われたりして。仲良しになってくれたらうれしいと思いました。

(たむら・せつこ)●既刊に『HAPPYおばさんのしあわせな暮らし方』など、挿絵に「おちゃめなふたご」シリーズなど。

『星のなる木』"
星の環会
『星のなる木』
くすのきしげのり・作/田村セツコ・絵
本体1,400円