日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『まいごのしにがみ』 いとうみく

(月刊「こどもの本」2020年7月号より)
いとうみくさん

気のいいふたり

 まだデビューする前の話です。「JOMO童話賞」という童話賞に応募した作品があります。

 原稿用紙五枚の短い物語で、童話ですが主人公は子どもではなく、成績不振でリストラされた営業マンと死神。

 ありがたいことに、その作品は優秀賞(最優秀賞じゃないです)を頂き、『童話の花束』という作品集に掲載していただきました。

 不特定多数の方に読んでもらえる、という初めての経験にドキドキしたことを覚えています。

 数年後、私は別の作品でデビューすることになるのですが。ときどきふっと、例の作品を思い出すのです。

 あれ、なんとかならないかな─。

 作品集に掲載して頂いたときの喜びなどどこ吹く風。もっとたくさんの人に読んでもらいたい、という気持ちがむくむくとわいてきます。

 なんて欲深い! ですが、書き手にとって作品というのは、そういうものなのではないかな、とも思います。粗も傷もこみこみで、作品は愛おしいのです。まさに親バカというやつです。

 もちろん、受賞作をそのまま本にしたいということではありません。子どもたちに手渡すには、登場人物もストーリーも変えて、児童書として、まるごと書き直す必要があります。でも、そこを変えても、書きたかったことがきちんと残せる自信はあったのです。

 そんな中で出会ったのが、理論社の郷内厚子さんでした。初対面のとき郷内さんは第一声、いや二声か三声で、「死神の作品、覚えています」「面白かった」と言ってくださったのです。え、なんで知っているのと驚き、感激しました。

 調子に乗ったわたしは、あの作品を児童書として書き直してみたい、と話しました。そんなことから誕生したのが『まいごのしにがみ』です。

 なーんのとりえもないと思っているぼくと、仕事のできない死神。

 似たもの同士?のふたりが出会ったその先にあるものは……。

 それは読んでのお楽しみ!

(いとう・みく)●既刊に『朔と新』『きみひろくん』『天使のにもつ』など。

『まいごのしにがみ』"
理論社
『まいごのしにがみ』
いとうみく・作/田中 映理・絵
本体1,200円