日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『すみれちゃん、おはよう!』 ばんひろこ

(月刊「こどもの本」2020年6月号より)
ばんひろこさん

小さな出会いから

 私は東京郊外の団地に三十年以上住んでいます。三十年の間に、子どもであふれていた団地には、お年よりがずいぶん増えました。

 それでもたまに、小さな赤ちゃんが泣く声が響いてくると、うれしくなって窓を開けて聞いたりしています。子どもたちがけんかをしていると、なになにどうした、と耳をすましてしまいます。普段は静かですが、小さな箱のような世帯が千も集まった団地の中では、毎日たくさんのおもしろいことや、びっくりするようなことが、いろいろおきているにちがいありません。

 そんな団地で生まれたのが『すみれちゃん、おはよう!』です。すみれちゃんという女の子の話ではありません。団地に来たばかり、もうすぐ一年生の女の子と弟が、小さなすみれの花に出会ったお話です。まだ友だちのいない二人ですが、すみれちゃんと遊ぶうちに、ドキドキする出来事がおこります。

 このお話を書いている時、昔の小さな出会いを、ふっと思い出しました。ある日ドアがガチャガチャと音をたてて開き、何事かと玄関に行ってみると、小さな女の子がいました。私を見ると、すごく驚いた様子で、

「あなたはだれですか?」

と聞いたのです。私もびっくりして、

「あ、あなたはだれですか?」

と、間抜けなことにオウム返しをしました。女の子は、ハッと見回し、あわてて出ていきました。どの棟も階段口も同じようなので、間違えたのでしょう。一瞬でしたが、それはとても楽しい出会いだったように思っています。

 こんな風のような出会いもあれば、長いつきあいになることもありました。小さな子どもたちには、楽しい出会いがたくさんあるといいなと思います。

 同じ丸山ゆきさんの絵で、『チ・ヨ・コ・レ・イ・ト!』と『まほうのハンカチ』と三作、団地での出会いのお話ができました。どれにもおもしろい顔の猫が出てきますので、ぜひ探してみてください。『チ・ヨ・コ・レ・イ・ト!』は文に猫が出てこないので、ちょっと難しいですよ。

(ばんひろこ)●既刊に『チ・ヨ・コ・レ・イ・ト!』『まほうのハンカチ』『天馬のゆめ』など。

『すみれちゃん、おはよう!』"
新日本出版社
『すみれちゃん、おはよう!』
ばんひろこ・作/丸山ゆき・絵
本体1,300円