こどもの本

私の新刊
『こもれび』 林 木林

(月刊「こどもの本」2020年5月号より)
林 木林さん

こもれびのゆれる場所で

 この頃は忙しくなって、久しく出かけていませんが、よくデジカメを持って近くの木立や緑地などに散歩がてら写真を撮りに行っていたものです。撮るものといえば、たいていは木の葉か空ばかり。木の葉といっても、私の場合は虫食いの葉です。ハートの虫食い、笑顔の虫食い、へんてこな虫食い。心に引っかかる可愛い虫食いの葉を探しては好んで撮りました。

 そんな中で、日々の自分自身に繋がるいろんな発見をし、また考えさせられることも少なくありませんでした。

 例えば、葉っぱの虫食い穴は光を通します。それが木漏れ日となって、下の葉を美しく照らすことも。日没には、逆光を受けて黒い葉の穴だけが明るく輝いているのも目にしました。ぽっかりと穴のあいている場所だけが輝く。その事実が、私には貴く美しく、心をしきりに揺さぶるのでした。

 そよ風に吹かれて、木の葉たちが織りなす風景をただ眺めていると、人の世に似ているなあとしみじみ思えてきました。それらのイメージがいつしか、新しい絵本『こもれび』の種となって芽生えたのでしょう。

 澄んだ木漏れ日が射し込む地面には、小さな草花たちの息づく世界があって、そこもまた人の世に似ていました。草花たちも私たちも、それぞれの光を求めて生きているのは同じで。日当たりのよい場所があれば日陰もあって。覆いかぶさる日陰を跳ねのけて輝く日向に変えることは容易ではありません。けれど、小さな木洩れ日に気が付いて、そっと触れられる心を自らの中に育て広げることは出来ます。木々には常に新しい木漏れ日が生まれたり消えたり、輝く場所は移ろいます。人の世の光と同じように。

 この絵本の物語は、私の心象風景から生まれた小さな希望です。既刊の絵本『あかり』と『ひだまり』に続いて、「光と影」を描いた三部作になります。今回の『こもれび』は特に書くのが難しく唸りながら格闘しました。

 一筋の木漏れ日のような光が、どこかで誰かの心に届くことを祈りながら。

(はやし・きりん)●既刊に『どんなふうに みえるの?』『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』、既訳書に『こんなもん くえニャイ!』など。

『こもれび』"
光村教育図書
『こもれび』
林 木林・文/岡田千晶・絵
本体1,300円