日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『うえきはちまる』 山本和子

(月刊「こどもの本」2020年4月号より)
山本和子さん

どっこい! 鉢植えならではの活躍

 花屋さんでつい鉢植えを買ってきてしまって、ごめんね、と思うことがあります。鉢植えの植物には、その鉢の中いっぱい分の土しかあげられないのです。窮屈ではないかな? 地面ならもっと伸びられるのに。私の住んでいる街は、古くからの下町で、路地のあちこちに鉢植えが並んでいます。その鉢植えたちに、いつもちょっと同情していました。

 ところが共著者のあさいかなえさんに、個性豊かな鉢植えキャラクターのスケッチを見せていただいたとき、なんとも愉快な思いが湧き上がってきました。そうです、どっこい、街の鉢植えたちはまわりと比べたりせずに、元気に生きていることに気がつきました。

 そこから、二人でどんどんアイデアを出し合って、お話を作っていきました。その中で、主人公のうえきはちまるはじめ、老練なはちじいや、しっかり者で優しいうめはちちゃん、応援専門のはちパンチョなどが生まれました。動き始めたはちまるたちは、なんと街の中の鉢植えたちが困っていないかを見回る、パトロールを始めたのです。

 はちまるたちは、人間のお世話を受けて生きてはいますが、人間とコミュニケーションをとることはありません。動ける距離も時間も少なくて、できる手助けも限られています。この植木鉢であるための制約の中で、はちまるたちは、のびのびと活躍してくれました。考えたら植木鉢にとってはそれが当たり前の世界。人間の価値観や視点がすべてだと、自分も日頃思っていたのですね。

 そしてあさいかなえさんの絵によって、はちまるたちのパトロールについていくと、鉢植え目線での街のいろいろな風景、そこに生活する人、動物、ものなどに、自然に出会うことができます。この絵本には、今消えていきつつある「商店街」の魅力を伝えたいとの思いも、背景としてありました。

 この絵本を読んで、街の鉢植えに目を向け、鉢植えにも心意気があり、こっそり活動しているのかもと、想像していただけたら幸いです。

(やまもと・かずこ)●既刊に『おやつなんだろう?』など、既訳書にM・ウォルシュ『ちきゅうのためにできる10のこと』など。

『うえきはちまる』"
ひさかたチャイルド
『うえきはちまる』
山本和子、あさいかなえ・作/あさいかなえ・絵
本体1,200円