日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『あらいぐまのせんたくもの』 大久保雨咲

(月刊「こどもの本」2020年1月号より)
大久保雨咲さん

一枚のハンカチ

 毎日、楽しいことばかりだといいのになぁ。どうして、こんな嫌な思いをしなくちゃならないんだろう。こどものころ、よくそんなふうに思っていました。でも、日々、暮らしていると、楽しいことばかりじゃない。どうしたって、悲しいこととか、辛いことも起こってしまいます。

『あらいぐまのせんたくもの』は、コインランドリーをはじめて使うおばあさんと、悲しい気持ちをかかえたあらいぐまが、洗濯をするお話です。泣き虫のあらいぐまは、悲しいときにハンカチで涙をふいていたら、「かなシミ」というシミが消えなくなってしまった、と言います。そして、洗濯機であらえば、「かなシミ」も「悲しみ」も消えると思っているようですが……。

 もし私たちの気持ちが一枚のハンカチだったとしたら、一生を終えるときに、どんな模様になっているのでしょう。このお話を書きながら、そんなことを考えていました。あんなに辛かったのに、いつのまにか消えてしまったシミや、どれだけ時間がたっても消えない深い「かなシミ」もあるかもしれません。シミどころじゃなくて、やぶれてしまっていたらどうしよう。

 あらいぐまは、おばあさんに話をきいてもらいながら、いろいろと想像してみます。悲しみのこと、けんかをしてしまった友達のこと、それから、これから起こるかもしれないちょっとだけ先の未来のことを。

 悲しみを癒やす方法なんて分からないし、ましてや時間がたてば解決するなんて簡単には言えません。でも、私たちのハンカチが、いろんな感情の色を吸って、最後に味わい深い一枚のハンカチになっていればいいな。そんな願いをこめて、このお話を書きました。

 もう悲しくってしょんぼりなあらいぐまを、相野谷由起さんがとても愛らしく描いてくださっています。さて、あらいぐまとおばあさんは、ちゃんと洗濯ができるのでしょうか。見とどけていただけたらうれしいです。

(おおくぼ・うさぎ)●既刊に『うっかりの玉』『ドアのノブさん』『ずっとまっていると』。

『あらいぐまのせんたくもの』"
童心社
『あらいぐまのせんたくもの』
大久保雨咲・作/相野谷由起・絵
本体1,100円