こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ10
大日本絵画

(月刊「こどもの本」2019年7月号より)

いつのまにか売れた

ザ・キャビンカンパニー 作・絵
2001年11月刊行

 わが社の絵本は、外国の出版社が発行したしかけ絵本を、中国やタイなどでいろいろな国の版と一緒に共同印刷・製本し、日本語版として発行する。編集者の私が、初めてこのベストセラーになるこの本の英語版サンプルを見たのは、2001年5月であった。

 表紙に10個の穴があいていて、その中に着色された10ぴきのプラスティックでできた、おもちゃのてんとうむしが、ページをめくるたびに1ぴきずつ消えていくという、普通の数の覚え方の逆をいくしかけに、斬新でとても面白いと感じた。

 当時、出版界は『ハリー・ポッター』ブームで、わが社も尻馬に乗って翌年の映画公開前に、「賢者の石」のしかけ絵本を発行するため、編集も営業も必死であった。そんな最中に同時進行となったので、発注部数も『ハリー・ポッター』の3分の1でしかなかった。

 翻訳を始めたが、その頃のわが社はしかけ絵本とは、子どもが手で触れて参加するものだという固定観念にとらわれていた。この絵本は動かすしかけは無く、「あなあきしかけえほん」と名づけたが、表紙を見ただけではどんなしかけかわからないだろうし、絵も淡い水彩で本屋の店頭で平積みにしたら、目立たないのであまり売れないだろうと考えた。

 そこで、営業の絵本担当者にホラー仕立てのストーリーにして、最後に落ちをつけたら売れるかもしれないと提案し実行した。

 外国での印刷製版は、まだデータ送信でなく、ポジフィルムを航空便で送った。表紙・本文とも変更はスミ版1色のみという国際ルールがあり、この絵本のタイトル文字が4色になったのは、やっと2016年からである。

 子どもの頃、背中が黄色いてんとうむしを見つけ、新種だと捕まえ虫かごに入れておいたら普通の色になった。生まれたばかりは、黄色いのだと後で知り騙された。あまり期待されていなかったこの絵本が、通販などで取り上げられ、インターネットやSNSもない時代に口コミだけで、あれよあれよという間にベストセラーになり、また騙された。なぜ売れたのかは謎だ。それがわかれば編集者に苦労はない。

 昨年、わが社の売り上げ部数トップだった、ロバート・サブダの派手に飛びだす『不思議の国のアリス』を抜いて、堂々の1位になった。しかし、しかけ絵本の花形役者とはいえない。まだ、ピエンコフスキーの傑作『おばけやしき』にはかなわないと思っている。

 読者の子どもから、おもちゃのてんとうむしが、絵の色とあっていないと指摘された。子どもの観察力恐るべし。侮るべからず。

(大日本絵画 北村正雄)