日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『魔法使いマーリンの犬 エクスカリバーをぬくのはだれだ』 大山 泉

(月刊「こどもの本」2019年7月号より)
大山 泉さん

ハナキキと出会ってしまった!

 わたしが『魔法使いマーリンの犬』の主人公、ハナキキくんに最初に出会ったのは、続編の『魔法使いの犬と聖杯(仮)』(今秋刊行予定)だったのです。続編といっても、前作を読んでいない人でもちゃんと物語の流れについていける工夫があり、話をする犬と、アーサーという名前から連想する性格とはちょっとちがう気の弱い男の子、勝気な女の子モルガナ、そして魔法使いの一行が、大切な人(実は妖精ですが……)を助けるため、ハナキキを先頭に、困難な旅へ歩みをすすめる物語を心から楽しみました。

 ハナキキは人間のことばを学び、話ができるのですから、考えることも人間並み。けれど、よく目にする犬の習性やしぐさなどが、その意味などもふくめて描写される場面もあって、身近にいるワンちゃんたちも、ひょっとしたらこんな風に考え、話したがっているのかしら、と思わせてくれます。そうなんです、この作品も続編も、犬のハナキキの目と心を通して描かれているのが最大の魅力のひとつです。

 あらためて1巻目を読み進めると……続編で前の冒険のあらましを知っていたとはいえ、ハナキキが話せるようになった理由、なかまたちそれぞれとの出会いと関係の変化などがしだいに明らかになり、心にじんわりしみいるようでした。ところがなかまがさらわれ、家は爆破されて……ハナキキは目の前の困難をひとつずつ解決して進まなくてはなりません。魔法初心者のハナキキは、失敗を重ねながらも(この失敗がまた犬ゆえに……という場面もあって目がはなせません)最後には思いがけない形でなかまの苦境を救う大活躍となります。

 この作品、欧米ではよく知られるアーサー王や宝刀エクスカリバーの伝説に関わるようでありながら、そのエッセンスのみ拝借し、ハナキキというユニークなキャラクターを加え、妖精たちの住む異界での冒険の世界を描いています。はらはらドキドキしながらも、読了したときにはあたたかな思いに満たされていることでしょう。

(おおやま・せん)●既訳書に『今、世界はあぶないのか? 難民と移民』『プラスチック・プラネット』など。

『魔法使いマーリンの犬
評論社
『魔法使いマーリンの犬 エクスカリバーをぬくのはだれだ』
エリック・カーン・ゲイル・作/大山 泉・訳
本体1、600円