日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ8
「たった ひとつの ドングリが ―すべての いのちを つなぐ―」 評論社

(月刊「こどもの本」2019年3月号より)

小さな存在が支える大きな命

ローラ・M・シェーファー、アダム・シェーファー 文 フラン・プレストン=ガノン 絵 せなあいこ 訳
2018年3月刊行

『たった ひとつの ドングリが』は、縦横二十センチほどの小さい絵本です。内容はいたってシンプル。森の中、一個のドングリが芽ぶき、木に育ち、そこに鳥がやってくる。鳥が来れば種が落ち、花が育ち、実がなり、その実を求めて動物が集まる。そしてまたドングリが木から落ちて……という命の連鎖を、最小限の言葉と美しいイラストで描いています。そこに込められた自然の営みへの驚きと共感……一目で素晴らしいと思いました。

 が、この小さな本が教えてくれたのは、それだけではありませんでした。舞台となったのは、アメリカ合衆国南部の、広大なカンバーランド高原。世界でもっとも多様な生態系を持つ地域のひとつで、シカ、ウサギ、リス、クマ、タカなどが暮らしています。ここで、森のすべての動植物を養っているのがホワイトオーク(コナラの仲間)だというのです。木の実は栄養豊富な食べ物になり、幹は鳥やヤドリギのすみかとなり、根はしっかり土を支え、水をためこんで土地の侵食を防ぎます。たとえ一種類の動植物が絶滅したとしても、森の生態系は守られます。ですが、ホワイトオークのドングリがなくなってしまったら、生態系は崩れ、命の鎖が切れてしまうのです。

 人間にとっても森は生きるために必要です。水を飲んだり、料理に使ったり、家具や紙製品を作ったりするのも森の資源からです。森は、私たちが呼吸する酸素もつくりだしてくれます。短期間にたくさんの資源を奪うと、森には再生する時間がなく、荒れ果てていきます。カンバーランド高原も、伐採、採掘などでいためつけられ、今は森を守ろうという運動が広がっているとのこと。巻末では紙製品を浪費しないことの大切さをうたい、子どもたちにもできることを提案しています。

 この本の原書は、内容にふさわしく「FSC認証」で作られています。FSC認証とは、適切に管理された森の資源を使用している証しで、使う用紙だけでなく、印刷所や製本所もFSC認証を得たところでないといけないという厳しいものですが、これほど環境への意識が高い本を出版するのなら、原書と同じくFSC認証のマークを入れたものにしたいと思い、印刷所の方たちと相談しながら日本版を制作しました。昨今の欧米の印刷物では、絵本でも読み物でも、このマークを入れた作品が多くなりました。日本でもSDGs(持続可能な開発目標)のアイコンを目にする機会が増えています。環境への配慮は未来に向けての重要な課題の一つといえます。地味な絵本ですが、手作りポップを添えるなど多くの書店員さんが応援してくださる作品です。

(評論社 編集部)