日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『おやゆびさん』 風木一人

(月刊「こどもの本」2012年5月号より)
風木一人さん

おやゆびさん ありがとう

 見慣れた自分の手を見ていて、ふと気がつきました。手には指が5本というけれど、親指と他の4本は少し違っていることにです。小指から人差し指までは兄弟のようにきれいに並んで生えているのに、親指だけは少し離れたところから生えています。かたちも親指は他の指より太く短く、なんだか力強いかんじです。そしてなんといっても動き方。自由度が高く、他の指と向き合うことができるんですね。

 多くの動物の手(前足?)にも指がありますが、人間のような、他の指と向き合える親指を持つ動物はあまりいません。猫の手でおはしは使えないし、犬の手で逆上がりもできないでしょう。他の4本と違う、他の4本と向き合える親指があるから、私たちは握ったりつまんだりでき、細かい作業でいろいろなものを作ったりもできるのです。

 そう考えると、そもそも人間が人間になったのはこの親指のおかげといえるかもしれません。土をこね、木をけずり、石を磨いて道具を作れたのは親指のおかげです。その道具を使って絵を描いたり、本を書いたり、ビルを建てたり、ロケットを飛ばしたりできるのも、すべてこの「少し違った」親指の存在あればこそなのです!

 5本とも同じだったらできることが広がらず、1本違うものが入っただけで一気にいろんな可能性が広がるのは、とても面白いことではないでしょうか。人間も同じような個性ばかりでなく、違う個性があってこそ、協力していろんなことができるのかもしれません。

 今まで気づいていなかったけれど、親指ってすごいんだな。よし、親指の絵本を作ってみよう。そう思ってできたのが『おやゆびさん』。ここまで書いてきたような内容がたっぷり詰まっている─かは不明ですが、単純に指を動かすことの楽しさを存分に味わってもらえればと思っています。そしていつも一生懸命働いてくれる自分の手を、もっともっと好きになってくれたら嬉しいです。

 おやゆびさん、ありがとう。

(かぜき・かずひと)●既刊に『にっこりにこにこ』(市原淳/絵)、『おしゃれなのんのんさん』(にしむらあつこ/絵)など。

「おやゆびさん」
鈴木出版
『おやゆびさん』
風木一人・作
ひろかわ さえこ・絵
本体1,100円