日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『もみじのてがみ』 きくちちき

(月刊「こどもの本」2019年1月号より)
村上健司さん

もみじの赤の感動を…

「紅葉の絵本を」編集者さんからお誘いいただいたのが、きっかけでした。とても楽しみになり、わくわくしながらすぐに描けるような気がしました。でもそんな予感は大はずれ。びっくりするほどの苦戦具合でした。

 はじめは近所の林を観察したり、山へ登って紅葉を満喫しました。自然の美しさに大満足で、さて何を描こうかなという気持ちになりました。資料をながめ、紅葉体験をふまえながら、探り探り手を動かしていました。子どもを登場させたものの、描いていくうちに動物が主人公のほうが面白いように感じて変更したり、たまには植物を綿密に描こうと思ってみたり、いろいろと迷ってなかなか進みませんでした。あれこれ悩みながらも、やはり自分が感じた、もみじの赤の感動を描きたいと思い、やっと物語が少しずつ見えてきました。それでも思うように描けず、何度も描き直していました。

 今回の絵本はデザインも凝っていて、紅葉をイメージした赤い紙をカバーにしたり、めくると表紙や見返しに小さな驚きがあったり、物語の想像が膨らみます。そんな素敵なデザインを見たら、また描きたくなり描き直しました。小さな動物の目線で物語に入り、動きや表情、性格、もみじの感じ方など、なるべく自然になればと思い描いていきました。ただ、そうこうしてる間に、紅葉の季節となってしまったのですが…。

 いろいろありましたが、山に登ったところからはじまり、絵本になるまで、絵本作りの醍醐味、楽しさを再確認できました。いつも周りの方の力を借りながら絵本を作れることに感謝です。なるべく単純な絵本作りをしたいなと心がけながら、大きな喜びはもちろん忘れがちな小さな喜びも、新鮮に感じられるようなものにしたいなと思っています。そんな気持ちを込め、もみじの小さな物語がうまれました。ぜひ、もみじの赤を感じてください。秋の絵本ではありますが、季節に関係なく、小さなお子さんも大人の方も楽しんでいただけたらなと願います。

(きくちちき)●既刊に『とらのこ とらこ』『ゆき』『パパのぼり』など。

『もみじのてがみ』"
小峰書店
『もみじのてがみ』
きくちちき・作・絵
本体1,600円