日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『もしものときの 妖怪たいさくマニュアル』(全3巻) 村上健司

(月刊「こどもの本」2019年1月号より)
村上健司さん

「妖怪なんていない」が出発点

 妖怪なんていないじゃないか─。

 それが小学生のころのささやかな不満であり疑問だった。

 一九六八年生まれの僕は、物心つくころから妖怪に染まっていた。

 生まれた年の一月から水木しげる原作のテレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」が放映され、それを機に世の中は妖怪ブームになっていたのである。

 さらに一九七〇年代には、オカルトブームが巻き起こる。テレビや雑誌では心霊体験・UFO・超能力・予言といった怪しげな特集を組み、怖い物好きだった僕は当然のように楽しんだ。

 しかし、そのころから、僕の疑問は大きくなっていった。

 妖怪が活躍するのはもっぱら漫画やアニメの世界だけで、テレビ番組の特集ではなかなか取り上げられない。

 どうして幽霊や宇宙人に会った人の再現ドラマはあるのに、妖怪に出会った話はないんだろう。本にはぬらりひょん、天狗、河童とたくさん妖怪が出ているのに、なんで出会うことがないんだろう……。なんてことを考え、心をモヤモヤさせていたのである。

 緩やかな妖怪ブームとなっている昨今、当時の僕と同じ心境の子供も少なからずいるはずで、そんな子供たちのモヤモヤを霧散させたいというのが、本書を書く動機なのだった。

 昭和の妖怪ブームですっかりキャラクター重視になった妖怪。だが、実は現代でも怪奇体験、心霊体験などで妖怪は語られていた。形に囚われるあまり、ほとんどの人はそれが妖怪だとは気づかないだけなのである。

 視点を変えることで見えてきた現代の妖怪譚。その事例から、今も妖怪がいるかもしれないというドキドキを楽しんでもらいたい─。また、自然科学や民俗学による解説から、妖怪以外の分野にも興味を持つきっかけになれば─というのが本書の狙いである。

 ともあれ、妖怪は、いる・いないにこだわるよりも「いるかもしれない」という考えの方が、楽しむことができるような気がする。本書を通して、そんな楽しむ心を育めればとも思う。

(むらかみ・けんじ)●既刊に『妖怪事典』『怪しくゆかいな妖怪穴』「10分、おばけどき」シリーズ(全3巻)など。

『もしものときの
汐文社
『もしものときの 妖怪たいさくマニュアル』(全3巻)
村上健司・著
山口まさよし・絵
本体各1、600円