日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『巨人の花よめ』 平澤朋子

(月刊「こどもの本」2018年10月号より)
平澤朋子さん

おそろしい巨人とサーメの娘

 サーメ人は、スカンジナビア半島北部を中心とした土地に暮らす先住民族です。夏は日照時間が非常に長く、冬は雪と氷で覆われる、美しくも厳しい環境の中で、このお話のサーメ人は色鮮やかな衣装を着てトナカイを育てながら生活しています。

 私は北欧の風景が好きで何回か旅していますが、この地方を歩いた時は大地の雄大さに圧倒され、人間である自分がとてもちっぽけに思えました。その体験が巨人と人間のサイズ感を考えるのにとても役に立ちました。

 文章を担当した菱木さんは、サーメの昔話によく登場する巨人のことを「ときに容赦なく人々の命やくらしをおびやかす存在という意味で、自然の脅威の象徴ととらえることができます。」と、あとがきに書いています。その脅威と共にありながら、賢く恩恵も受け取って生活してきた人々の生み出した『巨人の花よめ』というお話は、生きることへのエネルギーに溢れています。そして時に、ユーモラスな展開があるところに、サーメ人のしなやかな強さを見出すこともできます。

 絵を描いていて、昔話というのは鬼ごっこやかくれんぼなどの遊びに通じるものがあると感じました。昔から伝わるシンプルな遊びには、鬼から一所懸命逃げたり、自分と鬼のサイズ感を把握して隠れたり、といった生き残る方法が詰まっています。絵本の中では、生活を脅かす巨人に娘が立ち向かい、交渉をしながら身を隠し、逃げる計画を立てます。

 世の中は、昔話や遊びのように完全な悪役、鬼役が存在するものではありません。けれども、昔話や遊びを夢中になって楽しむことで、おそろしいと感じたものから、自分や大切な人の命を全力で守る瞬発力や知恵などを体の中に少しずつ蓄え、それが自信を持って生きるうえでの基盤になっていくのではないかと思います。

 菱木さんのリズミカルで美しい文章と共に、混沌とした世界を鮮やかに力強く生きていくイメージが、読者の心の中に広がることを願っています。

(ひらさわ・ともこ)●既刊に『「親子あそび」のえほん』(武本佳奈絵との共著)、『もうどう犬べぇべ』(セアまり/文)など。

『巨人の花よめ』"
BL出版
『巨人の花よめ』
菱木晃子・文
平澤朋子・絵
本体1、600円