日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『あかずきんちゃん』 カトウシンジ

(月刊「こどもの本」2018年9月号より)
カトウシンジさん

赤ずきんちゃん×オオカミ…ふふふ

 実を言うと、僕は『赤ずきんちゃん』のステレオタイプな結末が、あまり好きではありません。ですから、自分が絵本を描くとしたら・赤ずきんちゃんとオオカミが友達になる・─そんな新たなエピローグを描きたい、と秘かに思っていました。

 僕が『赤ずきんちゃん』に関わった最初のキッカケは、雑貨用に描き起こしたイラストです。当時、「赤ずきんちゃん」や「オオカミ」などを数多く描いたんですね。結果、この「赤ずきんちゃんシリーズ」は大ヒットし、僕の代表作のひとつになりました。とりわけ、悪者のオオカミが「かわいい!」と世間から評価され、内心嬉しかったものです。

 僕は常日頃から、「ある事象に対して、皆が持っている共通認識は、本当に真実なのだろうか?」という疑問を持っています。デザイナーとしての観点は、いつもそこにあるんですね。「普遍的なモノの中に新しい種(価値)を植え付け、現代に合う作品をクリエイトする」─それが僕のライフワークです。

 本作で、一番現代風に変えたかった点は、主人公の「赤ずきんちゃん」そのものです。「赤ずきんちゃん」を通して、「自分を持った逞しい現代の少女像」を描きたかった。「もし自分に娘がいたら、こういう風に育ってほしい」という思いも込めています。

 一方、話が現代風な分、絵に関しては"手描きらしさ"に拘りました。ヨーロッパの雰囲気、空気感が十二分に伝わる─つまり絵の魅力で、読者を童話の夢世界に誘いたかったのです。読者がその世界観を旅するように楽しんでいただけたら、冥利に尽きますね。

 物語の前半から中盤は、「赤ずきんちゃん」と「オオカミ」の心の葛藤が、それぞれの語り口で進行していきます。読者はきっとどちらの気持にも寄り添える、と僕は思っています。なぜなら、人間は絶えず二面性を持った生き物ですから。

 果たして、「赤ずきんちゃん」と「オオカミ」はお互い理解し合えるでしょうか……? どうぞお手に取って確かめてみてください。

(かとう・しんじ)●既刊に『あこがれのチュチュ』『ポケットいっぱい』。

『あかずきんちゃん』"
出版ワークス
『あかずきんちゃん』
カトウシンジ・作
本体1、600円