こどもの本

私がつくった本34
主婦の友社 和田千春

(月刊「こどもの本」2012年4月号より)
よっつめの約束

『よっつめの約束』
高野 優/作・絵
2012年3月

「いまなら書けるかもしれません。伝えたいんです」

 東日本大震災から半年たった秋のある日。電話の向こうの高野優さんは、そう話しはじめました。

「たいせつな人を亡くした悲しみはなくなりません。でも、色あざやかなポスターがゆっくりと色あせるように、悲しみもゆっくりうすらいでいきます。悲しみがゼロになることはないけれど、その中から笑いも力もわいてくる。三年たって、ようやくそういう気持ちになってきたんです」

 震災でたいせつな人を亡くした方に伝えられたら、と優さん。その日、ずっと書けなかったテーマに向き合う決心を聞かせてくれました。

 育児マンガとエッセイで、子育ての幸せを描きつづけてきた彼女の著作は、およそ40冊。その主な作品は、等身大の高野ファミリーを描いたものです。ママである「私」、パパの「寺ちゃん」、「リンちゃん・ナギちゃん・シオちゃん」という三姉妹。五人家族のハッピーな日々。

 しかし、パパの長く苦しい闘病生活が、作品に書かれることはありませんでした。三年前の秋の日に、小学生と保育園児だった三姉妹を残して、パパが帰らぬ人となったことも……。それは、作品化するには、あまりに過酷な現実だったのです。

 私には、忘れられない光景があります。パパの笑顔の遺影と、告別式の会場に繰り返し流れていた、ルイ・アームストロングの『この素晴らしき世界(What a Wonderful World)』。「この曲で送ってほしい」という、生前の彼のセレクトだったと聞きました。

「ようやく最近、子どもたちと笑ってパパの話ができるようになってきたんですよ」

 娘たちの成長を長く見届けられないと知っていたパパは、たくさんのメッセージを残していました。そして、三人の娘たちは、成長に応じた形でパパの不在と向き合い、思い出と向き合ってきたのです。

「創作絵本にしましょう。たいせつな思い出は子どもたちに残し、普遍的な物語をめざしましょう」

 そんな私の提案を受け、優さんは夢中で作品をしあげました。家族で交わされた会話が、高野優・はじめての絵本、『よっつめの約束』に凝縮しました。

 私たちがいつか、たいせつな人との別れを経験しなくてはならないとしたら、この絵本の主人公である幼いきょうだいが悲しみを受け入れ再生していく過程は、すべての私たちへのエールなのかもしれません。

 秘密をひとつお教えしましょう。本のなかに、パパの愛した名曲がこっそり織り込まれています。ぜひみつけて、感じてください。パパが三人の娘たちに伝えたかったメッセージ、What a Wonderful World!