こどもの本

私の新刊
『アラヤシキの住人たち』 栗山 淳

(月刊「こどもの本」2018年2月号より)
栗山 淳さん

それぞれの時間をともに生きる

 アラヤシキ―。それは、長野県小谷村の白馬山麓に連なる山中にある茅葺の大きな建物です。

 真木と呼ばれる集落にアラヤシキが建てられてから、百年ほどの時間が経ちました。真木へは、一時間半の山道を自らの足で歩いて登ります。昭和初期の最盛期には百人近くの住人がくらし、小学校の分校もあったそうです。人は山に分け入るようにして田畑を開墾し、くらしを営んできたのでしょう。

 一九七二(昭和四十七)年に、地すべりで山道が流失したことから、かつての住人たちは集落を離れ里へと移住します。こうして、真木にはアラヤシキをはじめとする十数棟の建物だけがとりのこされました。

 ちょうどそのころ、障がいのある人も、ない人も共に働き学ぶ「共働学舎」が創設されます。創始者は自由学園の教師をしていた宮嶋眞一郎さん。無人となった真木集落のことを知った宮嶋さんは、数人の同志と山に入り、真木でくらしはじめます。

 集落の中心的な建物であるアラヤシキには、ふたたび囲炉裏に火がともり、くらしのにおいがたちこめます。

 社会で肉体的・精神的な生きづらさを抱える人も、そうでない人も、それぞれが自分のできることをして、ひたすらありのままに生きる。それぞれの人がもつ時間の流れとともにあろうとする宮嶋さんの思想は、現代を生きるわたしたちの心を揺らします。

 いまアラヤシキには、一風変わった住人たちが犬や猫、ヤギ、鶏などの動物たちとともにくらしています。田畑を耕し、ミツバチを飼い、お茶やみそをつくり、建物を修繕し、ときどき町にコーラを買いに行きます。そんな個性豊かな住人たちのくらしぶりを、写真家で映画監督の本橋成一さんが、静かにやさしく包みこむような眼差しでフィルムに収めました。

 アラヤシキでのくらしは現在進行形です。今年は、水車小屋も完成するそうです。あなたもぜひ、アラヤシキの住人たちに会いにきてください。

二〇一七年『ホワイト・レイブンズ』選定

(くりやま・じゅん)●編集した既刊に『うちは精肉店』『まるごと発見!校庭の木・野山の木』(全8巻)など。

『アラヤシキの住人たち』
農文協
『アラヤシキの住人たち』
本橋成一・写真と文
栗山 淳・構成
本体1、600円