日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ジングルベル』 小宮 由

(月刊「こどもの本」2017年12月号より)
小宮 由さん

平和はよろこびから生まれる

 安全保障関連法案、いわゆる安保法案の可決後、本屋さんでよく見かける本があります。それは、命や平和の尊さを伝える絵本です。確かにあの法案で、私は、子どもたちの命、そして、未来の平和に不安を覚えました。

「私たちおとなが何とかしなければ」

 子どもの本の仕事をしている人であれば、思いはみないっしょだと思います。しかし、だからと言って、その思いを、ダイレクトに絵本の型に流し込んでもいいのでしょうか。

 私は、アメリカの古い本、一九四〇年~七〇年代の本を翻訳することが多いのですが、その時期のアメリカというのは、太平洋戦争を含めた第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争と、立て続けに戦争をしていました。そのような状況下で、当時のアメリカの子どもの本の作家や編集者たちが、どんな本を作っていたかというと『どろんこハリー』(一九五六)や『三びきのやぎのがらがらどん』(一九五七)など、今日、日本でロングセラーとなっている作品です。それらの本には、戦争の影さえ見えません。なぜなら、彼女らは知っていたのです。命や平和の尊さを伝えたいなら、子どもたちに「よろこび」を与えるしかない、ということを。どんな時代でも、子どもの心が欲するものはよろこびであり、子どもは、それを生きる糧とする。子ども時代によろこびを存分に享受していれば、何が平和かを判断できるおとなになる。だから絵本がよろこびを伝えずして、他に何で伝えられるだろうかと。

 それは、南北戦争以来、アメリカの内地が戦場になっていないからだと、指摘する人もいるかも知れません。しかし、少なくとも先に挙げた二冊の作家たちは、よろこびの大切さを理解し、それを自らの作品で表現していたことは、生前の交流から確かです。

 日本には山本有三氏が編集した「日本少国民文庫」がありました。日本が戦争に向かっている時期に、あのような豊かな本が出たのです。「おひざにおいで」というシリーズも志は同じです。ある意味、私の手がける本すべては、反戦の本だと言ってもよいのです。

(こみや・ゆう)●既訳書にM・W・ブラウン『まるぽちゃおまわりさん』『にんぎょうのおいしゃさん』など。

『ジングルベル』

PHP研究所
おひざにおいでシリーズ
『ジングルベル』
キャサリン・N・デイリー・作
J・P・ミラー絵 こみやゆう・訳
本体1、300円