日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『超巨大ブラックホールに迫る「はるか」が創った3万kmの瞳』 平林 久

(月刊「こどもの本」2017年11月号より)

平林 久さん

「はるか」と宇宙へ

長野県に千曲川が流れていく小さな村がありました。すぐ近くの山々に囲まれているので遠くは見えません。ここで生まれ育った農家の7人きょうだいの末っ子が、東京に出て大学、大学院に入り、天文学の世界に進んでいきました。この子はそれまで望遠鏡をのぞいたことがないらしく、星座もほとんど知りませんでした。

目では見えず電波で輝く宇宙を相手にしました。このころ、世界では、宇宙には始まりがあったことの証拠の電波(宇宙背景放射といいます)や、正確な周期で強い電波を出す中性子星(パルサーといいます)など、それまで想像もできなかった大発見が続いていました。そこで世界に負けない電波望遠鏡をと仲間とがんばっているうちに、千曲川のずっと上流の八ヶ岳の野辺山高原に大きな電波望遠鏡ができました。

世間知らずの男の子の世界は、想像もできなかった方向にさらにひろがっていきました。そして、宇宙に電波望遠鏡を打ち上げて観測するという大きな夢に向かって、宇宙科学研究所にとびこんでいきました。地球の3倍という大きな電波の瞳をつくって、巨大なブラックホールがひきおこすふしぎな世界を見ようとしたのです。

電波望遠鏡は新開発のロケットで打ち上げられ、「はるか」と名づけられ、国際科学チームのリーダー役を担うことになったのが、この著者です。

新しいこと、未経験な世界に進んでいくので、いろいろな場面でハラハラドキドキです。また、何十年にもわたる宇宙のミステリーを追うので、この筋をたどっていただく必要があります。ちょっと難しい電波天文技術にもついてきてもらえるようにやさしく書こうと心がけました。

ルビをふって小・中学生から読めるようにしてありますが、中身は大人にもふさわしいでしょう。あちこちに著者の気持ちが出ています。たくさんの読者に、この新鮮な気持ちを一緒に味わって欲しいと願っています。

(ひらばやし・ひさし)●既刊に『宇宙人に会いたい! 天文学者が探る地球外生命のなぞ』『観測がひらく不思議な宇宙』など。

『超巨大ブラックホールに迫る「はるか」が創った3万kmの瞳』

新日本出版社
『超巨大ブラックホールに迫る「はるか」が創った3万kmの瞳』
平林 久・作
本体1、500円