日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『オムレツ屋のベビードレス』 西村友里

(月刊「こどもの本」2017年10月号より)
西村友里さん

命は当たり前じゃない

 フライパンでバターが溶けて、キツネ色になりかけたときの匂い。

 そこに卵をジュワーッと流しこんで作るふわふわのオムレツ。

 レストランを舞台にしようと決めたとき、すぐに浮かんだ名前が「オムレツ屋」でした。

 おいしいものは、人を優しい気持ちにするはず。その中でなら、心に何かを抱えた子ども達だって、自分の生き方を見つけられるはず。

 そして生まれたのが、シリーズ前作『オムレツ屋へようこそ!』でした。尚子、和也、敏也の三人は、人の優しさに囲まれて、成長します。

 今回、『オムレツ屋のベビードレス』でこの子達が向き合うのは、命。

 なんと、和也と敏也の母親明子に赤ちゃんができたのです。命の誕生にどう向き合えばいいのかとまどう和也達。

 一方、尚子の破天荒な母親悠香は、尚子の目の前で、暴れ馬にまたがって走り出します。もし、落ちたら、もし母さんが死んだらどうしよう。尚子は夢中で後を追いかけます。ところが、この悠香も旅先で命のはかなさを体験していたのです。

 今の子ども達の多くは、パッと消えてポコッと再生するゲームのキャラクターに囲まれています。一方で、身近な誕生や死を経験することは、少なくなっています。

 考えてみれば、大人だって機会がなければ、命について考えることは、そんなにありません。

「生きていて当たり前」になっていませんか。

 悠香はいいます。

「人が生きているのは、当たり前じゃなかったんだ。」

 明子は祈ります。

「命だけは、命だけは、助けて下さい。」

 命ってなくなることもあるんです。だから、かけがえのない大切なものなんです。

 子ども達が、気づいてくれたらうれしいなと思ってこの作品を書きました。

(にしむら・ゆり)●既刊に『いちごケーキはピアニッシモで』『きらきらシャワー』『占い屋敷のプラネタリウム』など。

『オムレツ屋のベビードレス』
国土社
『オムレツ屋のベビードレス』
西村友里・作
鈴木びんこ・絵
本体1、300円