日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『たいふうのひ』 武田美穂

(月刊「こどもの本」2017年9月号より)
武田美穂さん

楽しく作った一冊です

 きっかけは、編集者さんの家族旅行の話でした。
 その夏忙しかった彼は、夏休みの最後の最後にやっとのことで休みを取り家族と八丈島に短い旅行にいくのですが、運の悪いことに台風とモロ鉢合わせすることになってしまったのでした。
 台風も空気読んでほしいです。泣。
 だってたぶん彼は、夏中「パパーどこかつれていって」光線を痛いほど浴び、でも入稿だの校正だの夏のイベントだのに追いまくられ、「待っててくれよ、パパ頑張るから」と心の中で詫びつつ、休めずにいたのです。(想像)
 だからこそ、だからこそ! この「島旅行」は、さぞや家族に喜ばれ、さぞや彼はドヤ顔で、その実ほっとしたことでしょう。
 なのに。島に着いたとたん、空港の売店でも、タクシーのなかでも、お昼を食べた島寿司の店でも、ホテルでも、「いやあ、お客さん、気の毒だねえ」。声をかけられるたび兄妹の顔もまた、島の空のように曇ったに違いありません。そして、予報通りというか容赦なくというか、台風が島を直撃します。
 さて、興味深いのはそこからです。台風が来て行き過ぎるまでのあれこれを彼はこどもたちと観察し、状況、経過をメモしていくのです。時間まで記録しているのが編集者。知ってますか? 台風、「目」を境にして、風の向きが変わるんです。なるほど! と思うでしょう? 写真まであるのでとにかく面白くて。「え? そう? なら武田さん、絵本にしちゃおうよ」「そうか、しちゃいましょうか? でも描けるかな」「いけるいける!」みたいな感じで作ることになったのでした。
 登場人物や舞台などシュチュエーションは変えましたが、台風に関してはヒアリングしたことや読ませてもらったメモが下敷きになっています。もうひとり、実作業を担当してくれた編集者さんもまた、沖縄出身で台風に詳しい。いろいろ教えてもらいつつ仕上げていきました。と、ちょっとイレギュラーなかたちで楽しく作った一冊です。読んでくださいね!

(たけだ・みほ)●既刊に『どーんちーんかーん』『おさるのこうすけ』『わすれもの大王』など。

「たいふうのひ」
講談社
『たいふうのひ』
武田美穂・作
本体1、400円