こどもの本

私がつくった本78
少年写真新聞社 山本敏之

(月刊「こどもの本」2017年8月号より)
えんとつと北極のシロクマ

えんとつと北極のシロクマ
藤原幸一/写真と文
2016年7月刊行

 表紙のシロクマが、じっと私たちを見つめながら、何かを語りたそうな表情をしている……。『えんとつと北極のシロクマ』は、当社の創業六十周年を記念してスタートした写真絵本シリーズの四作目にあたります。企画当初は、「北極の異変」というタイトルでした。

 写真家・生物ジャーナリストの藤原幸一さんと写真絵本の出版の話し合いを始めたのは、二〇一五年の夏。藤原さんは、世界各地を取材し、多くの出版社から写真絵本などを出しています。いくつかの企画候補の中から、私が選んだテーマは北極でした。藤原さんがしばらく北極の本を出していなかったことと、私の中で「北極の本をつくりたい」という気持ちが以前からあったことが理由です。児童書において、「北極が舞台でシロクマが出てくる」というのは、いささか手垢のついた気もしますが、一方で普遍的なテーマだともいえます。理屈抜きで、子どもが興味を持つテーマの一つだと思います。

 ただ、この本は「子どもが大好きなシロクマの話」とは少し違います。タイトルの「えんとつ」という言葉に、大きな問題が隠れています。北極には、私たち人間が原因をつくった環境問題があるのです。私自身、地球温暖化で北極の氷が溶けているという話は耳にしていましたが、多くの汚染物質が北極にまで届いているとは思ってもいませんでした。汚染物質は北極の生き物たちの体にたまっていき、アザラシの生肉を食べるアラスカの先住民の体にも悪影響を与えている、と藤原さんはいいます。その汚染物質を象徴するのが、この本に出てくる「えんとつの煙」です。目に見えない汚染物質をどうやって見せるのか? 絵本のように描くわけにはいきません。藤原さんにとっても難問だったようですが、えんとつの写真と巻末に解説・図解を加えるくらいにして、あとは読者の想像力に委ねることにしました。

 シロクマが出てくる写真絵本で、ここまで環境問題に迫った本はないと思います。そこがこの企画の狙いで、「ありそうでない本をつくろう」という思いがありました。巻末の解説文は「北極のシロクマが泣いている」と題しましたが、実はこれもタイトル候補でした。藤原さんは多くの写真絵本をつくっていますが、作品の中のメッセージは押しつけがましくなく、読者に疑問を投げかけるスタイルのように思えます。

「私たち人間はシロクマや地球に何を残そうとしているのか?」

 美しい北極の写真と懸命に生きるシロクマの親子の姿を通して、この本は問いかけています。でも、難しく考える必要はありません。子どもたちには、ページをめくり、本の中のシロクマたちのメッセージを感じてもらえればと思います。