日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『「もうひとつのお家」ができたよ』 國森康弘

(月刊「こどもの本」2017年7月号より)
國森康弘さん

写真絵本で感じてほしい「死」を、「生」を

「だあれかさんが、見いつけた」とカラオケの熱唱。野菜を刻む包丁。カコーンと卓球。昔話に花が咲き、ときに大笑い。遊びに来た子供のはしゃぎ声。夜中のいびき…。ここは東京・小平市にあるホームホスピス「楪」。ガンや認知症を抱えるお年寄りたちが、なぜでしょう、笑顔でひとつ屋根の下に暮らしています。家族は好きなときに、会いに来られます。お年寄り同士はもちろん、家族同士もひざを突き合わせ、悩みや喜びを共有しながら、大きくゆるやかなファミリーのようなつながりが生まれます。ヘルパーさんが二四時間常駐し、往診や訪問看護もあって心強い。ここが「もうひとつのお家」、そして「終のすみか」です。

 筆者は紛争地や貧困地で「つめたい死」を取材する中で、いつしか天寿まっとうの「あたたかい死」を知りたい、全世代に伝えたい、できれば全世界で目指したい、と思うようになり写真絵本『いのちつぐ「みとりびと」』を出版しています。第1集は滋賀県の農村地帯、第2集は東北被災地、を舞台に「看取り」と「いのちのバトンリレー」の営みを写しました。「死」を意識してこそ初めて、「生」が本来的に輝く、と。『(1)恋ちゃんはじめての看取り』はけんぶち絵本の里大賞やIBBY障害児図書資料センター推薦図書にも選出。

 そしてこのたび都市(東京)編となる第3集((9)~(12))を出しました。都市部では今後お年寄り人口が急増する一方、家や施設、病院のいわば「地域の介護力」は伸び悩んでいます…。そこで筆者が注目したのが、全国に広がりつつあるホームホスピスでした。「楪」に入居した当初はギクシャクしていたお年寄りたちが「同じ釜の飯」を食べ、心身の痛みを分かち合いながら、誰よりもいたわり合う仲に。最期も、みんなで手厚く看取ります。「家を追い出されたように感じて初めは嫌だったけど、ここであなたに出会えてよかった」「…私もよ」、「そのうちあたしも逝くから、…また会いましょうね」。

 いのちの有限性と継承性を、絵本を通じて子どもたちに実感してほしい。

(くにもり・やすひろ)●既刊に第3集『(10)よかった、お友だちになれて』『(11)さいごまで自分らしく、美しく』など、全12巻(1~3集)。

いのちつぐ「みとりびと」第3集『(9)「もうひとつのお家」ができたよ』
農文協
いのちつぐ「みとりびと」第3集『(9)「もうひとつのお家」ができたよ』
國森康弘・写真・文
本体1、800円