日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本77
福音館書店 高木理恵

(月刊「こどもの本」2017年6月号より)
チュウとチイのあおいやねの ひみつきち

『チュウとチイのあおいやねの ひみつきち』
たかおゆうこ/さく
2017年5月刊行

 子育ては理想通りになりません。出産前、「子どもにテレビを見せないようにしよう」と決意していたというのに、5才の娘は今や毎晩、大好きなアニメを見ています。我が子に限らず、スマホにドリル、ゲームなど、現代の子どもたちは忙しくて、いつも手元ばかり見ているように思います。

 作者のたかおゆうこさんと、編集者としても母親としても新米の私は、ともに田舎で自然に囲まれて育ったこともあり、以前から「今の子どもたちって、空がそこにあることに気づいているのかな」「自然の中に身を置く喜びを感じられる絵本を作りたいね」と話し合ってきました。「秘密基地」を題材にした絵本を作ると決めたとき、屋内ではなく屋外の、それも大自然のど真ん中に作られた秘密基地を舞台にしようとすぐに決まったのは、そういう土台があってのことでした。合言葉は、「センス・オブ・ワンダーの世界」、そして「空を見上げたくなる絵本にしよう」。こうして、大草原の中にミステリーサークルのようにぽっかりと空いた、柔らかな新緑の壁と、吸いこまれそうな青い屋根をもつ、小さな小さな秘密基地の物語が誕生しました。

 初めてふたりだけで、山のおばあちゃんの家に泊まりに行くことになった町ネズミの兄弟チュウとチイ。家ではできないことを思いきりできる場所としての「秘密基地作り」は、場所の選定からはじまり、仲間を増やし、みんなで空を見上げ、宝物を隠して……と、ドキドキとワクワクに満ちあふれています。

 こだわったのは、登場する小動物たちの行動を追うだけではなくて、読者の一人ひとりが、その「気持ち良さ」を主観として体感できる絵本にすることでした。寝ころがって空を見上げていると、いつの間にか吸いこまれていくような感覚に陥ることはないですか? 「その感じを絵本でも出せたらいいね」と何度も話し合いました。雲や風、空気が刻々と変わっていく様を感じてほしいという狙いで、たかおさんがパステルで描く、透明感があって美しい空の絵を、あえてほぼ同じ構図で何枚も重ねるという構成を選びました。特に、青空から夕焼け空へとドラスティックに空が表情を変えるシーンでは、作画や印刷の段階でも試行錯誤を重ねました。初校が色調の修正指示の赤字で真っ赤になり、しかも「スカッと抜けるような空の色を出してください」と無茶なお願いをしたりして、印刷所の方には大変なご苦労をおかけしたと思いますが、結果、ページの隙間から自然が溢れてくるような、野原に落としたら見つけられないような1冊に仕上がったと思います。

 忙しい毎日を必死で生きる現代の子どもたちが、この絵本を読んでいる時間は、広い空に心を投げ出してくれるように願っています。ご一読ください。