こどもの本

私の新刊
『犬とおばあさんのちえくらべ』 西村由美

(月刊「こどもの本」2017年5月号より)
西村由美さん

シュミットのオランダ

 オランダの子どもの本を日本に紹介したい! そう思ったとき、真っ先に、私の頭に浮かんだのは、今回の『犬とおばあさんのちえくらべ』の作者、アニー・М・G・シュミットだった。外務省研修所などで、仕事や研修、留学でオランダに行く人たちにオランダ語を教えるようになって、数年が過ぎた頃のことだ。これからオランダへ行く人たちが、オランダという国やそこに住む人たちのことをあまりに知らないことに気がついた。外国語を学ぶには、言葉だけでなく、その背後にある文化や社会、人の心を知らなくてはならない。授業の中でも工夫を凝らしたが、自分が説明するよりも、現地からの生の声=文学、それも、大人も子どももいる日常の生活が描かれた、子どもの本を紹介するのが何よりだ、と考えるようになった。

 それには、アニー・М・G・シュミットがいちばんだ。

 オランダ人なら誰もが子どものころにその作品を読み、「彼女の本がない子ども部屋はない」と言われる作家。オランダ国内の児童文学の賞を数多く受けただけでなく、一九八八年には、国際アンデルセン賞も受賞した。さらに、子どもの本の作家としてだけでなく、詩人、劇作家、脚本家としても活躍し、当時、女王がいたオランダで、「オランダの本当の女王」とまで言われた。

 一九九五年に亡くなったときには、新聞各紙が一面トップでとりあげ、その死を悼んだ。オランダの著名な評論家の一人は、「シュミットはオランダに住む人みんなの心がわかっていた。だからこそ、オランダ中が彼女の本を読むし、読み続ける」と称えた。

『犬とおばあさんのちえくらべ』は、『パン屋のこびととハリネズミ』、『カエルになったお姫さま』とならぶ、そんなシュミットのおとぎ話集。この三冊には、彼女が長年にわたって書いた数多くの短編から、晩年になって自ら厳選したお話がつまっている。おとぎ話とはいっても、ひと味ちがうシュミットの世界。シュミットのオランダを、ぜひ楽しんでいただきたい。

(にしむら・ゆみ)●既訳書に『イップとヤネケ』『ペテフレット荘のプルック』(上・下)『ネコのミヌース』など。

『犬とおばあさんのちえくらべ 動物たちの9つのお話』

徳間書店
『犬とおばあさんのちえくらべ 動物たちの9つのお話』
アニー・М・G・シュミット・作 西村由美・訳 たちもとみちこ・絵
本体1、400円