日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『田んぼの生きものたち カエル』 福山欣司

(月刊「こどもの本」2012年3月号より)
福山欣司さん

最も詳しいカエルの生態図鑑

 本書は、「田んぼの生きものたち」シリーズの一冊です。これまでに五冊が既刊となっています。
 このシリーズでは、タガメやホタルなどの水田に生息する生物の暮らしが写真やイラスト付きで詳しく解説されています。本の種類としては、生態図鑑なのですが、単なる図鑑に留まらず、最近起こっている水田の変化が生物にどのような影響を与えているのかを解説することで、田んぼの生物多様性保全の必要性を伝える啓発書の目的も担っています。対象は小学生ですが、おそらく大人が見ても十分に参考になるクオリティだと思います。
 本シリーズで「タガメ」と「ゲンゴロウ」を担当された姫路市立水族館の市川憲平さんから「カエル」を書いてみないかと依頼された時、以前からカエルの生態図鑑を自分の構成で作ってみたいと思っていた私は、二つ返事で執筆を引き受けました。ところが、見本として届いた「タガメ」を開いて、びっくり。そこには、私の知る限り最も詳しいタガメの生活史が、美しい生態写真と解説で紹介されていたのです。同じレベルで「カエル」ができるだろうか、と正直後悔しました。
 田んぼで暮らす生物を紹介するためには、生態写真が不可欠です。どんなに詳しい解説も写真がなければ、子どもたちには分かりにくいものになってしまいます。しかし、研究者である私は写真を撮るのは得意ではありません。そこでカエルの生態写真の第一人者である前田憲男さんに写真を担当してもらいました。
 カエルの普段の暮らしを撮るというのは、そんなに簡単なことではありません。特に今回は、私の解説に写真を合わせてもらったために、八割くらいは新たな撮り下ろしとなりました。苦労した写真も多いと伺っています。
 結局、写真へのこだわりと私の遅筆のせいもあって、依頼を受けてから発行にたどり着くまで、実に三年もかかってしまい、編集者の方にはご迷惑を掛けてしまいました。ただ、時間を掛けた分、これまでで最も詳しいカエルの生態図鑑になったと思います。

(ふくやま・きんじ)●既刊に『ニューワイド学研の図鑑 爬虫類・両生類』『しぜんキンダーブック オタマジャクシ』(共に共著)など。

「田んぼの生きものたち カエル」
農文協
『田んぼの生きものたち カエル』
福山欣司・文
前田憲男・写真
本体2,500円