日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『地球をほる』 川端 誠

(月刊「こどもの本」2012年3月号より)
川端 誠さん

百聞一見!なんと絵本が宙返り!!

 子どもの頃、穴をほって地球の裏側に行ってみたいと、誰もが一度は考えたことと思います。やがてそれがまったく無謀なことだと気付くのですが。

 日本の文字・文章というのは、便利というかなんというか。縦書きと横書きが自在なんですね。そして絵本の場合は、どちらにするかで本の綴じが決まり、絵に方向性が生まれます。文が縦なら、右で綴じて右に開いていき、画面のドラマは左へ左へと進みます。

 なんとか、縦書きで始まった絵本がいつのまにか横書きに変わってしまうような、また右開きの絵本が左開きに変わってしまうような、そんな絵本を作ることは出来ないだろうか。それがこの絵本を作ろうとした発端でした。

 思いついたのは、作家になって十年目頃と思います。谷川俊太郎さんと和田誠さんの『あな』です。それは縦開き(上開き)の絵本なのです。すぐに「これだ!」と思いました。甦ったのは、子どもの頃のあの地球をほる夢。

 日本から出発して、地球を斜めにほってアメリカに行く。日本語の縦書きから始まって、絵本を徐々に傾けていき半回転。アメリカに着いたところで英語になる。もちろん文は横書きになる。構想はあっという間にまとまりました。しかしそれはずっと僕の頭の中に居続け、多分日の目はみないだろうとあきらめかけた絵本のネタでした。

 一昨年の夏『怪僧タマネギ坊』を作り終えた僕は、次にやろうとしていた絵本を脇に置き、猛然と『地球をほる』の絵コンテを描き、文を書き始めたのでした。みるみる出来上がり、やがてダミーに取りかかったとき、テレビでおどろきのニュースを知ったのです。それはチリで落盤事故があり、埋められた三十三人が全員生存しているということがわかったという報道でした。

 落盤事故さえ知らなかった僕は、びっくりでした。どうして急にこの絵本を作ろうと思いたったんだろう。ひょっとしたら、チリの七百メートルの地下から僕のところに、地球をほれ、地球をほれ、と信号が届いたのではないだろうか。今でもそう思っています。

(かわばた・まこと)●既刊に『うえきばちです』「お化け」シリーズ「野菜忍者列伝」シリーズなど。

「地球をほる」
BL出版
『地球をほる』
川端 誠・作
本体1,400円