こどもの本

私がつくった本76
農文協 荘司博史

(月刊「こどもの本」2017年3月号より)
マツの絵本

まるごと発見! 校庭の木・野山の木(3)
『マツの絵本』
福田健二/編、深津真也/絵
2016年3月刊行

 木を扱った図鑑や観察ガイド、園芸書は数多い。その中で、あえて絵本で扱おうと考えたのは、現代では木にまつわる知識や情報はかなり断片的になっていて、全体を知ることが実は難しいのではないか、と思ったのがきっかけだった。そんな木の生き方と人間のかかわりを、文字通り「まるごと」描いたのがこのシリーズ。ここでは『マツの絵本』を中心に、編集のねらいや思いを紹介させていただく。

 マツと私たちの生活との接点は多い。正月の門松や鏡もちの飾りに使われ、校庭や庭園、公園に多く植えられている。あるいは海辺のマツ林を思い浮かべる人も多いだろう。小中学校でも、生活科では松ぼっくりを使ったクラフトが出てくるし、中学校の理科では裸子植物の代表例として欠かさず登場する。この本は、そんな接点から、マツという木(生きもの)の全体像に理解が深まるよう工夫した。

 前半は、木の育ちを中心に展開する。松ぼっくりは二年かけて熟してたねをまきはじめることや、花粉には遠くに飛びやすいように、空気袋という特殊な器官がついていること、松のたねには翼がついていて風によって遠くまで運ばれることなど、季節や成長段階を追いながら描いている。

 また、マツと言えばマツタケ。マツタケの菌は生きたマツの根にすみついて、お互いに必要な栄養分を交換しながら生きている。シイタケのように「原木栽培」ができないのも、そのためだ。このシリーズでは、そんな木の生き方にとことん迫っている。

 後半は、栽培や利活用を中心に展開する。マツの場合は、木材や枝葉、食用にマツの実を利用するほか、書道に使われる墨や、バイオリンのロジンの原料など、利用の幅はとても広い。近年改修が終わったJR東京駅の地下には一万本以上のマツの杭が使われていたことや、第二次世界大戦中、マツの根からとる成分で戦闘機の燃料を作ろうとしたことなど、歴史の一コマも随所に散りばめている。

 編集にあたっては、木のイメージがふくらむようなイラストを最初と最後に配置しつつ、本文ではビジュアルな写真を駆使し、最新の知見も交えて具体的に叙述することにこだわった。編者をお願いしたのは、いずれも林学や生態学、造園学などの第一線の研究者。編者の方とのやり取りを進める中で、編集する側も木や森について認識を深めながらの作業となった。

 このシリーズは、『マツの絵本』のほか、「(1)サクラ」「(2)イチョウ」「(4)カエデ(モミジ)」で第一集を構成し、続いて「(5)ドングリ(コナラ)」「(6)ブナ」「(7)スギ」「(8)ケヤキ」を収録した第二集も、二〇一七年二月に全巻出そろう。このシリーズをきっかけに、身のまわりの木一本一本が背負っている物語に思いをめぐらせてみてほしい。