日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『スコットくんとポワロくん』 フィリケえつこ

(月刊「こどもの本」2017年3月号より)
フィリケえつこさん

それぞれの”離陸”のきっかけに

 日本で絵本というと、”読み聞かせ”や”良い本”という言葉がよく聞かれます。その言葉に、16年間のフランス生活から帰国した私は、どんな本を書いてよいのかわからなくなってしまいました。帰国後もなお、自分を絵本作家として育ててくれたフランスの子どもたちのために、絵本や雑誌で描き続けています。ページ数やサイズに決まりがある日本で「良い話を書かなければ。」と迷っているうちに、8年が過ぎてしまいました。自分のしたいことは何だったのかを考えました。それは絵や色によって、子どもたちに新しい風を感じてもらうことです。だから私は絵を描くことから始めました。子どもが絵を眺めているときに、風を感じて想像をふくらませたり、お話を作ってしまう、そんなきっかけになる絵本を創りたいと思いました。

『スコットくんとポワロくん』では、グラフィック的な色の面白さだけでなく、「きれいだなあ、喜んでくれるかなあ?」と、ポワロくんの笑顔を想像するスコットくんの素直な気持ち、人を想う気持ちの大切さも伝えたいと考えました。大人たちには、星空のもとでホッとした一瞬の沈黙に自分と相手(特別な人)の存在を感じるようなシーン、記憶の中の忘れていた瞬間を思い出して、時空の散歩ができたらと思いました。年齢や環境のまったく異なる二人が親友になることもある、ということも感じてもらえたら嬉しいです。

 私がまだ幼かった40年以上前のことですが、居間に高さ30センチ位の引き出し付きの小物入れがありました。それにはシールも貼り放題。兄に1段、私に1段、母が空けてくれました。秘密の宝物入れです。兄の引き出しには目がダイヤのようにキラキラひかり手足がゆらゆら動く骸骨のキーホルダーが入っていました。私はそれが「とってもかっこいい。」と思いました。フランスに行ってからも、骨の標本などを見る機会があり、それがスコットくんにつながっているのかもしれません。

(フィリケ・えつこ)●既刊に『おうだんほどうのムッシュトマーレ』(香坂直/作)、『みてみよう日本のくらしマイ・ジャパン』など。

「スコットくんとポワロくん」
あすなろ書房
『スコットくんとポワロくん』
フィリケえつこ・さく
本体1、500円