こどもの本

私の新刊
『スマート』 武富博子

(月刊「こどもの本」2017年1月号より)
武富博子さん

力強く生きる意志

 キーラン・ウッズ少年の毎日はたいへんだ。大好きな母さんはスーパーのレジ打ちや掃除の仕事をかけもちしてほとんど家にいない。「父さん」と呼ばされている男は暴力をふるうし、その息子は戦争ゲームにあけくれている。通っている中学校では、学習補助の先生が助けてくれるものの、いじめにあうし、居場所もない。家も安全ではないから、しょっちゅう近所の川に出かけては、水鳥をながめたり、ホームレスの人としゃべったりしている。

 そんなキーランが、ある日、川に浮かぶ死体を発見した。

 死んだのはホームレスのおじいさんで、誤って川に落ちたと見なされた。だが、殺人事件だと考えたキーランは、刑事ドラマで仕入れた知識と持ち前の観察力と絵の才能を生かし、ひとりで捜査をはじめる。やがて、思いがけない真実が明らかになっていく……。

 じつは最初、主人公キーランの置かれた状況に心が痛み、読みすすめるのが少しつらかった。ところがキーランの独特なものの見方のおもしろさと、意外とからりとしたユーモアを感じさせる文体、そして先が知りたいハラハラ感が相まって、どんどん読むスピードがあがり、最後まで読みきったときには爽快な気持ちになっていた。

 暴力、虐待、差別、犯罪など、社会のさまざまな負の部分に取り囲まれて生きているキーランは、それでもへこたれず、自分の思いをつらぬき、頭を使って行動し、道を切りひらく。だからこそ、物語のなかでキーランを助ける人たちのように、読者も思わずキーランを応援したくなるのだろう。

 作者はキーランの声を聞こえてきたままにこの本に書いたそうだ。その背景には、それまでに多くの自閉症の子どもたちを見てきた経験があるという。キーランの目と心と頭を通して世界を見る読者には、いつもとまったくちがう景色が見えてくるにちがいない。

 わたしはこの日本語版の表紙も好きだ。川岸に立って、真っ青な空を見あげる少年の姿からは、力強く生きる意志と希望が見える。

(たけとみ・ひろこ)●既訳書にクーニー『闇のダイヤモンド』、マコール『沈黙の殺人者』、キンプトン「動物探偵ミア」シリーズなど。

『スマート キーラン・ウッズの事件簿』

評論社
『スマート キーラン・ウッズの事件簿』
キム・スレイター・作
武富博子・訳
本体1、400円