日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『金魚たちの放課後』 河合二湖

(月刊「こどもの本」2017年1月号より)
河合二湖さん

「金魚畑」はどこにある?

 ずっと、金魚の物語を書きたいと思いつづけてきました。青息吐息で初めて書きあげた童話の主人公は金魚。長編の舞台は金魚店。

 きっかけは大学時代、江戸川区の葛西という街に住んでいたときのこと。わたしは都バスに乗って、環七を北へ向かっていました。その車中、となりに乗りあわせていたおばあさんから、「このあたりは金魚の産地で、すこし前までは養殖池がたくさんあった」という話をきいたのです。停留所に降りたったとき、家やビルにかこまれた景色にうっすら重なり、金魚たちの泳ぐ池がひろがる、かつての街の景色が見えたような気がしました。

 それから十五年あまりが経ち、念願だった金魚を題材とした物語と格闘するかたわら、かつて住んでいた街を何度も訪れ、歩きまわりました。ところどころにあった空き地の上にはマンションが建ち、西葛西駅周辺は多くのインド人たちが暮らす街へと変貌している中、養殖池はまだ残っていたのです。緑ににごった水のはられた区画は、まるで田植え時期の田んぼか、畑のよう。養魚場を探していなければ、気づかず通りすぎていたと思います。

「金魚畑」を見つけてから、滞っていた筆が、俄然すすみはじめました。主人公は、「金魚畑」のまわりを駆けまわる、今の子どもたち。身近な金魚をめぐる物語はさらに外国へ向かって動きはじめ……。結局、はじめに想定していたのとはまったくちがう場所へ着地しました。

 現在わたしが住んでいる中越地方には、寒さに強い「玉サバ」という地金魚がいるほか錦鯉の養殖も盛んな地域で、「金魚畑」ならぬ「鯉の畑」があったりします。「金魚畑」は、みなさんがお住まいの町にもあるかもしれません。

 装画を描いてくださったのは、河村怜さん。作中に登場するさまざまな品種の金魚たちの愛らしい姿も必見です。金魚好きの方はもちろん、「昔、飼っていたけどすぐに死んでしまった」という方にも、手に取っていただけるとうれしいです。共感の先に、きっと出会いと発見があるはずです!

(かわい・にこ)●既刊『バターサンドの夜』『深海魚チルドレン』『向かい風に髪なびかせて』など。

『金魚たちの放課後』

小学館
『金魚たちの放課後』
河合二湖・著
本体1、400円