日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本74
あすなろ書房 山浦真一

(月刊「こどもの本」2016年11月号より)
A Child is Born 赤ちゃんの誕生

A Child is Born 赤ちゃんの誕生
レナルト・ニルソン/写真、ラーシュ・ハンベルイェル/解説、楠田聡・小川正樹/訳
2016年3月刊行

 若き日、写真を志し、カメラマンに弟子入りした。月給は三万円。ちょっと夜間の写真学校に行っただけの素人だったのに、なんでもできるふりをしていたから、壮絶な毎日だった。結局、写真の道はあきらめたが、今でも写真は気になるし、よい写真、美しい写真は素通りできない。
 そんなこともあり、実は弊社のロングセラーには写真ものが多い。『ひとしずくの水』や『ちいさな労働者』。そして、写真絵本『赤ちゃんの誕生』。
 今回ご紹介するのは、『赤ちゃんの誕生』の完全版である。受精から出産までの九ヵ月に渡る胎児の成長をつぶさにたどる、世界一美しい生命誕生の本。写真絵本『赤ちゃんの誕生』がとても気に入っていたから、ぜひ親版も出版したかった。
 初版は一九六五年。その版はモノクロ中心だった。レナルト・ニルソンは、ツアイスやカール・シュトルツなどのレンズメーカーとともに、独自の撮影技術を生かせる機材を開発し、一九七五年に第二版を、その後、第三版、第四版と改訂版を刊行。二〇〇九年、「最終版」として第五版を出版した。
 実物を見て驚いた。今までの版とはまるで違う印象。医学書っぽさは皆無。文章量が大幅に減り、写真が物語の主役になっている! まるで写真絵本だ。
 二〇〇九年の十二月にさっそくオファーを出した。が、印税率は想定の約二倍。しかもコープロ(海外での共同印刷)が条件だという。
 大体私は、コープロはできるかぎり避ける主義だ。やはり印刷は日本のほうがいいと思うし、何より小回りが利かないのが困る。じっくり交渉すること五年。二〇一五年一月にようやく着地点がみつかり、契約を交わした。長い時間がかかった分、うれしさもひとしおだった。
 しかし、二二八ページ、オール四色刷のため、定価は当然高くなる。地道に売ろうと思っていた矢先、思いがけないできごとが! 女優の杏さんが、J‐WAVEで紹介してくださったのだ。それがヤフーニュースでもとりあげられたため、近年まれにみる大反響! 高額の本が、一時は、アマゾンでの売行が、総合六十七位までアップした。
 このとき、杏さんは双子を出産したばかり。妊娠中に本書を見て、今自分のお腹の中でこんなにスゴイことが……! と衝撃を受けたらしい。それがリスナーに伝わり、多くの人が興味をもってくださった。いろんな偶然が重なり、ラッキーな本になった。
 絵本版の『赤ちゃんの誕生』はご懐妊のお祝いに選んでくださる方も多く、一九九六年の刊行より版を重ね、ロングセラーに育った。判型は本書のほうが小さいが、写真そのものを味わうなら、よりアーティスティックなこちら、完全版がおすすめ。
 百聞は一見にしかず! である。