こどもの本

私の新刊
『いちばーんのり』 おかいみほ

(月刊「こどもの本」2016年11月号より)
おかいみほさん

いちばーんのりっ!

 イタリア暮らしも二十六年、すでに人生の半分以上をこの地ですごしている。日頃使っている言語はイタリア語。言葉を交わすと、どの地方出身のイタリア人であるかさえ、なまりやアクセントで聞き分けられる。そんな外国語!?ずくめの中で暮らしているからこそ、日本語の豊かさに心惹かれる。さらには、他所にいると日本語に対する感性がより研ぎ澄まされていく気がする。テレビのコマーシャルや、雑多な流行語が耳障りにポンポン飛び交わない場所に身をおくことによって、誰しも日本語のもつ美しい言葉の響き、そして豊かな一つ一つの表現に敏感にならざるをえない。
「いちばーん のりっ!」うちの子が大きな声で言った。習いに通っていたサッカー場に走って到着したときのことだった。もちろんいっしょに競っていた相手などいなかったし、日本語のわかる子など周りにはいない。なにしろ、運動会やかけっこなど、日本国内の子供たちの日常ごくあたりまえのことが、イタリアには存在しないのだから。サッカーはサッカー選手に基礎からしっかり技術を学ぶ。ナイターの設備やまた雨の日専用の人工芝のグラウンドも備えているサッカー場。無駄にマラソンや体力トレーニングなどで疲れることなく、ありったけの時間、ボールに触れる。そして練習の最後は毎回本番なみの試合をする。それは、ヨーロッパの人々にとって、歴史的に〈子供は大人を小さくしただけ〉という感覚に由来する。
 一方、古くから子供の文化を創造し、育んできた日本。ここ数年、アニメ、ゲームの世界であるにせよ、海外の青少年から勢い、熱い視線を浴びるようになったのも頷ける。そして決定的、オリジナルは運動会。構えた技術も何も要らない、無心に力一杯がんばる運動会こそ日本を象徴する文化のひとつだ。そこにあるのは、心から喜べる「いちばーん のりっ!」の合言葉。そしてカラクリの効く表現豊かな日本語。ことさら失ってはいけないのは、たっぷりの栄養と彩り、日本の朝をスタートさせる和食の朝ご飯である。

(おかいみほ)●既刊に『まっくらトンネル』『となりのおと』「きりんいす」(こどものとも年中向き2003年10月号)など。

いちばーんのり
BL出版
『いちばーんのり』
おかいみほ・作
本体1、200円