日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本73
新日本出版社 小松明日香

(月刊「こどもの本」2016年10月号より)
みなみのしまのカウカウ

みなみのしまのカウカウ
カイじいさんとおおきなさかな
森野熊八/さく、イシカワチヒロ/え
2016年7月刊行

 各種メディアで活躍し、全国で「食育」をテーマにご講演をなさっている料理人の森野熊八さん。「絵本をつくるのが夢だった」ということで、6年ほど前からキャラクターや物語を構想し、企画をあたためていらっしゃいました。
 本づくりのきっかけは、原案に基づいて描かれたイシカワさんのイラストを拝見したことです。キャラクターの個性、「みなみのしま」の世界観が描出された鮮やかなイラストに、森野さんならではの「食育」が組み合わされば、きっと素敵な作品になると感じました。
「食育」と聞くと、栄養素や食事バランスの学習など、特別なイメージを持つ方も少なくないかもしれません。しかし森野さんの「食育」は、とてもシンプルでわかりやすいものでした。
 ひとことで言えば、「ご飯をおいしく楽しく食べること」。私自身、普段は見過ごしてしまうような身近な「食育」を、本づくりのやりとりを通じてたくさん学ばせて頂きました。
・子どもと一緒にスーパーで食材を選ぶこと。
・料理を作りながら、材料の特徴を話したり、料理のコツを教えたりすること。
・出来上がった料理を食べながら、どんな味がするのか、好きな味か、嫌いな味か、どんなところが好き/嫌いなのかを話すこと。
 ……こんな日常にあふれる光景もみんな「食育」になり得ると、森野さんはいいます。たしかに、食事や食べ物の大切さは、食材に触れてこそ実感できることですし、その機会は毎日の営みの中にあるように思います。『みなみのしまのカウカウ』は、そんな思いを詰め込んだ、日常目線の「食育絵本」に仕上がりました。
 主人公のカウカウと村人たちが触れあいながら物語は進んでいきますが、魚釣りをする場面や調理の場面など、物語のポイントとして特に工夫をこらしたシーンは、視覚的にも楽しんでもらえるのではないかと感じています。「食べ物を残すのはもったいない」という思いをかたちにしたクライマックスのシーンは必見です。
 さらに巻末には、カウカウが暮らす町の地図と合わせて、森野さんが作詞した「おなかがすいた」というテーマソングの楽譜を載せています。作曲は、森野さんのご友人でもあるシンガーソングライターの新沢としひこさんにお願いしました。ご飯の前にみんなで一緒に歌いたくなるような、とても楽しい曲です。この曲はインターネットの動画でも聞くことができます。
 物語とテーマソングを合わせて味わって頂き、毎日の食事をもっと楽しく、充実した時間にしてもらえたらと願っています。