日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『しんかいたんけん! マリンスノー』 山本 孝

(月刊「こどもの本」2016年8月号より)
山本 孝さん

深海おやすみ絵本…!?

「深海…」そう呟いた時から、全てが始まった。同時に彼女(担当編集者)の猛烈なプッシュも始まった…! いろいろな展示へのお誘い、水族館にも足を運んだ。次々と届く深海関係の資料で僕の書棚は埋めつくされた。
「やるしかない!」すっかり狭くなった仕事場を前に僕は覚悟を決めた。もともと深海の世界が大好きで「いつか深海の絵本を描いてみたい!」と企んでいた。
 そしていざ「描ける!!」となった時、前から考えていたある事を試したくなった。実は描いてみたいもう一つのテーマが秘かにあったのだ。「おやすみ絵本」…絵本作家なら、一度は描いてみたいテーマだ。どうせ描くなら面白い、ワクワクするようなおやすみ絵本を描きたい。この二つの思惑が結び付き、「深海おやすみ絵本」という〝けったい〟なテーマができあがった。この欲張りな考えは徐々に自分の首を絞めていった…。
 最初に三つのルールを決めた。
①ワクワクする男子絵本であること!
②海の深さと眠りの深さをうまく表現する!
③好きな深海魚(場所)は全部描く!
 ①は毎度のことなので大丈夫!
 ②は…兄弟が布団をかぶり深海探査艇マリンスノーに乗り込む。マリンスノーは暗闇をどんどん深く潜っていき、いつのまにか眠っている二人…。物語の最初と最後のイメージは既に浮かんでいた。②もなんとか大丈夫か…。
 ③が曲者だった…。描きたい深海魚、シーンがとにかく多過ぎた。しかし頁数は決まっている。生息深度の異なる深海魚を少ない見開きでどう表現するか…!? 割り振るのが大変だった。あれもこれも描きたい! 気持ちだけが焦ってなかなかまとまらない。何度もラフを描き直し、原画では深海の色に悩んだ。そんな苦悩と妄想を繰り返し三年…深海おやすみ絵本『しんかいたんけん! マリンスノー』が完成した!
 この絵本には僕の二つの思惑、そして深海への思いがたっぷり詰まっている。読んだってね~。

(やまもと・たかし)
●既刊に『おばけのきもだめし』『アブナイかえりみち』『学校ななふしぎ』など。
『しんかいたんけん! マリンスノー』

小峰書店
『しんかいたんけん! マリンスノー』
山本 孝・作
本体1、400円