こどもの本

私の新刊
『こぶしのなかの宇宙 小さきものたちのスケッチ』 いせひでこ

(月刊「こどもの本」2016年8月号より)
いせひでこさん

えんぴつの先に見えるいのち

 今春、長野県安曇野の絵本美術館・森のおうちで、宮沢賢治の『ざしき童子のはなし』『よだかの星』『風の又三郎』『水仙月の四日』の絵本原画展がありました。二〇年前、三〇年前の自分の絵を目にし、改めて賢治解剖へのものすごいエネルギーを感じました。
『よだかの星』では、キャンバスを赤色で塗り込めてからそれぞれの場面を描いた。よだかの張り裂けそうな心の叫びを表すためにはどうしようと、さんざんに考え、表に見えなくても、下地に赤を敷いて描きました。『水仙月の四日』では、吹雪を描くため八甲田山へ。雪と吹雪を求めて彷徨いました。
 見たことしか描けない。これは、今も昔もかわりません。なので、いつも手放せないのがスケッチ帖です。モチーフに呼び止められて描くこともあります。木々や花やこどもたちや。何冊あるのか、数えたことはありませんが、スケッチがエスキース(下絵)となり、タブローや絵本原画になります。これもずっと変わらない創作過程です。
 この夏も原画展があり、長田弘さんの詩の絵本『幼い子は微笑む』が展示されます。もう一作品と考えたとき、一九九四~九五年に描いた、柳田邦男さんの毎日新聞連載『「死の医学」への日記』の挿画が思い浮かびました。
 連載に綴られたのは死に向き合っていられる方々の話。同時期、私の父も死期を迎えていました。添える絵ではなくなり、自分の父親への思いを重ねると、鉛筆の一本の線では描ききれなくなりました。迷いの多い不器用な線を重ねながら、くずれながら描いたように思います。死にゆく人をみつめながら描くことは祈りにも似ていました。
 ゆれる心を少年や少女たちに託したそれらの絵と、最近のあかちゃんたちのスケッチで構成したのが、『こぶしのなかの宇宙』です。
 あかちゃんのやわらかさ、おもしろさ、母子のつながり、母のせつなさ、小さなにぎりこぶしの中のひかりみたいなものを一瞬ですくいとったスケッチ群。こんどは一本の線の強さが生きています。(談)

(いせ・ひでこ)
●既刊に『木のあかちゃんズ』『あの路』『わたしの木、こころの木』など。
『こぶしのなかの宇宙 小さきものたちのスケッチ』

平凡社
『こぶしのなかの宇宙 小さきものたちのスケッチ』
いせひでこ・絵・文
本体1、400円