こどもの本

私がつくった本72
文研出版 橋本健作

(月刊「こどもの本」2016年7月号より)
お話きかせてクリストフ

お話きかせてクリストフ
ニキ・コーンウェル/作、渋谷弘子/訳、中山成子/絵
2014年8月刊行

 第二次世界大戦から七〇年以上がすぎ、大規模な世界戦争は回避されているものの、世界各地で「戦争」はさまざまに形を変えて続き、悲劇はやむことがありません。
 今回ご紹介する『お話きかせてクリストフ』は、まさに「現代的な戦争」がもたらす問題や葛藤がえがかれる作品です。
 舞台となるのはイギリスの小学校。主人公のクリストフが転校生としてやってくるところから物語ははじまります。
 戸惑いはありながらも新しい学校生活になれていくクリストフですが、ひとつだけ受け入れられないことがありました。それは「物語を本で読む」こと。クリストフは、生まれ故郷のルワンダにいたとき、おじいさんの「バビ」から、「お話というのは、身ぶり手ぶりを使って自分の口で語るもの」と教えられていたからです。
 ある日、校庭でサッカーをしていたクリストフは、おなかに銃で撃たれた傷があるのを友達に見つけられます。どうしてそんな傷があるのか、クリストフはルワンダで起きたことを語り始めました……。
 一九九〇年代に起きたルワンダ内戦では、人々は理不尽に民族を分けられ、それを理由に虐殺が行われたといわれています。
 お話の中でクリストフはまだ幼く、具体的に何が起きていたのかはよくわかっていません。しかし、突然の暴力にさらされた人々の戸惑いと苛酷な日々がクリストフの口から語られるのです。
「暴力」はどこから来るのか。クリストフは学校でいじめにあったときにも考えます。日常の争いから戦争までつながるテーマとなっています。
 そして「お話を語って伝える」ことと、「書いたものを本にして伝える」こと、それぞれの意味も、クリストフは知ることになります。「暴力」ではなく「言葉の力」こそが、よりよい社会をつくる手がかりになるのかもしれません。このお話自体は九〇年代末を舞台としていますが、内戦によって祖国を逃れヨーロッパへやってきた難民の物語は、むしろ現在の読者にさまざまな考えのヒントを与えてくれるように感じます。
 この夏、この続編にあたる『きみの話をきかせてアーメル』が発刊予定です。『クリストフ』のお話から数年後、もうひとりの転校生がクリストフのクラスへやってきます。彼もまた内戦で心に深い傷を負い、そのためにクリストフにも大きな憎しみをぶつけます。わかりあう道はないのか、成長したクリストフに、新たな事実と重い課題がのしかかります。クリストフの選んだ道に、ぜひ注目してください。