こどもの本

私がつくった本71
フレーベル館 宇賀信夫

(月刊「こどもの本」2016年5月号より)
ねこのひけしや

ねこのひけしや
渡辺有一/作
2016年2月刊行

写真:作者の渡辺有一先生(左)と筆者

 この絵本は、『ねこのはなびや』『ねこのでんきやスイッチオン』につづく、「ねこや」シリーズ三作目です。
 シリーズ初、江戸を舞台に火消・ぶちねこ組のねこたちが活躍する物語ですが、企画当初は現代を舞台とした消防士の設定でした。ところが、消防士の仕事を描くとなると、いくつもの問題点が浮かんできました。一番の難点は、火事の現場。どうしても現実的な佇まいの建築物や室内を描かねばならず、創作絵本らしいデフォルメ表現の加減が難しかったのです。それは、主役たる(ねこの)消防士の装備についても言えました。
 そのような中、出てきたのが時代設定を江戸にするというアイデアでした。半纏を羽織ったねこの姿は、『ねこのはなびや』でも登場します。その相性の良さを活かせばうまくいくのではないか、この絵本の道筋を決定づけるポイントとなりました。
 しかし、さまざまな職業を紹介するこのシリーズでは、仕事の正確な表現に対しては妥協できません。時代設定を変えることは、作者の渡辺有一先生にとっても大変なことだったと思います。コツコツと集めてこられた資料を横に置き、新たに江戸の火消についての資料を集めてくださいました。設定の参考になりそうな場所を見つけると、すぐに足を運んで見てくる。ときには、江戸の火事のシーンがあるテレビドラマを延々とご覧になることも。あっという間にオリジナル資料集は、分厚いノートに…。
 そして、あらすじを見せていただいたとき、最初の数行を読んだだけで、すごい絵本になることを確信しました。主人公はぶちねこ組の親方に拾われ、育てられたぶち丸。親方の実の娘や、組の兄いたちとのかかわり…。物語の中で個性の強い登場人物たちが生き生きと動いていたのです。
 見習いの火消・ぶち丸の訓練シーンでは、取材で集めた江戸の町火消の仕事がリアル、かつコミカルに表現され、大迫力のクライマックスシーンでもページの隅々まで火消の仕事が描かれています。火消の象徴である纏(まとい)は、物語の中でも大切な役割を果たしました。
 命がけの使命を背負った火消の姿だけでなく、数十ページのなかに、いくつもの人間模様(正確にはねこ模様)がぎっしり詰まった絵本が完成しました。
 完成後、偶然この絵本を消防博物館の方に見ていただく機会がありました。展示ガイドの方からは、「当時の火消の姿がよく描けていますね」とのお墨付きもいただけました。多くの方に手に取っていただき、このドキドキを一緒に感じていただけると嬉しいです。
 さて、次はどんなお仕事が登場するでしょう。どうぞ楽しみに待っていてください。