日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『たんぼレストラン』 はやしますみ

(月刊「こどもの本」2016年5月号より)
はやしますみさん

田んぼの中をのぞいてみたら

 春先、琵琶湖近くの田んぼで土づくりが始まるとトラクターのまわりに鳥たちが集まってくる。ムクドリ、トンビ、カラス、アマサギ、コサギ、黒い頭のユリカモメ。掘りおこされたオケラやミミズをつついて歩く。ご馳走はここですよと仲間同士の連絡網でもあるのかなあ。
 四月の中ごろ、よく耕された土に水が入ると、「そろそろはじめますよ」といったかんじでカエルが鳴きだす。ホバリングするヒバリ、新芽が吹いて、羽虫が飛んで、田んぼの中にもぞもぞ生きものが集まってくる。乾いた土で冬を越した卵は息を吹き返し、冬眠していた者たちは交尾して卵を産む。孵る。食べる。食べられる。羽化して飛び立つ。
 田んぼの中では厳しくて豊かな営みがエネルギッシュに繰り返されていく。

 田んぼの生きものたちを絵本にしたいと思ってから完成まで五年、観察やスケッチに時間をかけた。毎年変わる畦の雑草、夏にむわっと立ちこめるお米の花の匂い、何度も季節を迎えたからこそ気づいたことも多くて、大事に描いてきて良かったと思う。
 取材の最後の年は版元さんの紹介で湖北野鳥センターの植田さんに生きもののことを教わることができた。タガメやゲンゴロウ、ちいさなエビたちに触れながらスケッチしたり、田んぼに来たナマズをアオサギが捕まえトンビが横取りを狙う…なんて場面に出会ったり、貴重な経験ができた。クモがたくさんいる田んぼはカメムシが減るからお米がおいしいと聞いて、稲の中に広がる虫たちの楽園を想像してわくわくした。植田さんのお話を聞いていると絵本に出演する生きものがどんどん増えて、しまいには七十種類描いていた。ちゃんと濃い絵本にできたと思う。

 生きることは食べること。誰かの命を食べて、いつか誰かに食べられる。根っこのところを楽しく感じる絵本になっているかなあ。子どもたち、どんなふうに読んでくれるかなあ。

(はやしますみ)
●既刊に『とんとんとん だれですか』『ねーねーのしっぽ』『あまぐもぴっちゃん』など。

『たんぼレストラン』
ひかりのくに
『たんぼレストラン』
はやしますみ・作・絵
本体1、300円