こどもの本

私の新刊
『走れ、風のように』 佐藤見果夢

(月刊「こどもの本」2016年3月号より)
佐藤見果夢さん

犬の人?生

『走れ、風のように』はマイケル・モーパーゴが、一匹の犬を主人公に書いた物語です。同じ作者の『戦火の馬』は馬が主人公でしたが、今度は犬。私も犬の気持ちになって翻訳を進めました。主人公の「ボク」は、グレイハウンド。時速六十キロ以上が出せるという、まさに走るために生まれた犬種です。飼うには広大な敷地が必要なので、日本ではあまりお目にかかりませんが、イギリスではドッグレースのスターです。初めはベストメイトという名前だった「ボク」ですが、公園を走るその速さに目をつけられ、仲良しの少年のもとから誘拐されてしまいます。盗まれた先でレース犬としての訓練を受け、ドッグレースの花形として活躍するものの、その世界では、犬はひとたび怪我をすれば捨てられる消耗品。見かねた少女が、「ボク」を連れて家出します。少女がつけてくれた名前は、ブライトアイズ。あちこちさまよった挙句、猛犬に襲われて少女は大怪我を負って搬送されます。病院の外で寒風に震えながら少女を待つ「ボク」に優しくしてくれたのが、焼ジャガ売りのおじいさんでした。結局そのおじいさんが「ボク」を引き取ってくれ、今度はパディワックという名前をもらいます。
 こうして「ボク」は三回飼い主が変わり、そのたびに違う名前をもらって違う生活に投げ込まれます。作者は、人間に翻弄される犬の運命を語りながら、同時に「ボク」の目から見た人間たちの喜怒哀楽も描きだしています。
 モーパーゴがこの本を書いたのは、レース犬の待遇の酷さを知らせたかったからでした。というのは、ある時、大量のグレイハウンドを銃殺していた男の所業が報道されたからです。この事件をきっかけに、引退したグレイハウンドの里親を募る活動が活発になりましたが、それでもまだ多くの犬が悲惨な運命をたどっています。日本の私には何もできなくて歯がゆいのですが、イギリスでのレース犬の処遇改善、ブリーディング調整などの法整備を願い、少しでもみなさんにこの問題について考えていただければと思っています。

(さとう・みかむ)
●既訳書に『希望の海へ』『世界で一番の贈りもの』『戦火の馬』(以上M・モーパーゴ/著)など。

『走れ、風のように』
評論社
『走れ、風のように』
マイケル・モーパーゴ・作
佐藤見果夢・訳
本体1、200円